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社説・コラム

『潮流』 ヒロシマの「ソフトパワー」

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長 宮崎智三

 経済学とヒロシマ。接点がなさそうな組み合わせだが、そうでもないようだ。橋渡しを試みた人に、米国の経済学者トーマス・シェリング博士がいる。

 ゲーム理論の応用と発展に貢献したと評価され、2005年、84歳でノーベル経済学賞に輝いた。その時のスピーチが「驚くべき60年―ヒロシマの遺産」。広島・長崎への原爆投下により核兵器使用がタブー視され、その後の60年間、再び使われることはなかった、という内容である。

 ちょうど被爆60年という節目。平和賞には日本被団協も候補に挙がり、被爆地の期待は高まっていた。まさか、その年の経済学賞のスピーチで、ヒロシマが論じられていたとは…。

 教えてくれた広島修道大の三上貴教(たかのり)教授(国際政治学)によると、日本ではほとんど報道されなかった。核抑止論を容認する学者で被爆地とは相いれないと見なされたからだろうか。

 三上さんの見方は違う。シェリング博士は、核兵器廃絶を訴えてきた被爆地の役割や功績をしっかり評価している。むしろ、ヒロシマの「ソフトパワー」の高さを象徴する例だという。

 なるほど、積極的か渋々かの違いこそあれ、核兵器の使用をためらわせるのがヒロシマの影響力といえるのだろう。

 むろん、そのパワーが今後どうなるか、楽観視はできない。被爆者は年を重ね、肉声を直接聞けなくなる日もいつかくる。悲劇の記憶をどう次世代に受け継ぐか。被爆地だけの悩みでもないはずだ。

 ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺や、内戦で多くの犠牲者を生んだカンボジアとルワンダも参考に、その答えを考えよう―。そんな趣旨のシンポジウムを12月7日の午後、広島市中区の広島国際会議場で開く。

 ヒロシマと世界、被爆者と若い世代…。橋渡しの重みをかみしめたい。

(2013年11月21日朝刊掲載)

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