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社説・コラム

天風録 「歌うカナリア」

 おなじみの流行語大賞も昔は勝手が違ったらしい。取材はスポーツ紙だけ。カメラの放列など想像もつかなかったと、「マル金マルビ」で第1回大賞のコラムニスト神足(こうたり)裕司さんが30周年PR誌で振り返っている▲入れ替わるように色あせたのが流行歌の世界だろう。CDやダウンロードで聴き方が変わる。好みがばらけ、「国民的歌手」はもはや死語になった。一時は8割の視聴率を稼いだ紅白歌合戦も下り坂にあえいでいる▲それでも歌い手はカナリアだと、さだまさしさんはいう。炭坑でガス漏れにいち早く感づく役目になぞらえたのだろう。時代のおかしな空気を歌詞に込めるのも務めではないかと。自身、「遥(はる)かなるクリスマス」でイラク戦争に異を唱えた▲ことし再始動したサザンオールスターズは新曲で善隣友好を説いた。山崎まさよしさんは最新アルバムで憲法9条改正にくぎを刺す。大好きな物語の9ページ目の筋を勝手に変えられ、眠れなくなった男の子の心模様を歌う▲歌は世につれ世は歌につれ。戦後寄り添ってきたコンビの幸せは平和あってのたまものでもあろう。毒にも、薬にもなる。そんな歌の一節ならきっと流行語にも挙がる。

(2013年11月23日朝刊掲載)

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