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社説・コラム

話題の1冊 日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩 リ・ハナ著 

同胞励ます脱北の体験記

 政治的迫害や経済苦のため、北朝鮮から他国へ逃れた「脱北者」。日本にも、かつての帰国事業で海を渡った人の家族が戻るなどで約200人が暮らすという。その一人で今春、関西の大学を30歳で卒業した女性が、リ・ハナの筆名で自身の体験をつづった。

 インターネット報道サイト「アジアプレス・ネットワーク」に、2009年春から12年夏まで連載したブログを編集。刊行を紹介するネットのページには当初、「朝鮮へ帰れ」といったコメントが多く書き込まれたが、読者からの励ましのメッセージも相次ぎ、増刷に結びついた。

 北朝鮮北西部の都市に生まれたリさんは、農村への追放処分が迫った18歳の時、母、弟と北朝鮮を脱出。中国で5年間の潜伏生活を経て、05年に来日した。日本に着いて最初の行動は、「脱北時からずっと持ち続けていた自殺用の薬とカミソリを捨てること」だったという。

 夜間中学で学び、高校卒業程度認定試験を経て大学生に。本著には、念願だった学生生活の喜びや、異なる生活習慣への戸惑いに交え、ふとよみがえる北朝鮮時代の記憶をつづる。長崎生まれの在日2世で北朝鮮で医師になったが、生活に絶望して心身を病み、早世した父。小学生の時に見た公開銃殺の光景。一方で、歌手を夢見た15歳の夏のときめきも。

 刊行後、リさんは各地の集会に招かれることが増え、広島市でも講演した。「脱北者と明かすと、なぜガリガリに痩せてないのかと言われたり、北朝鮮の政権のイメージを重ねて危険視されたり。自己紹介の悩みは深い」と語った。

 それでも「存在を知ってほしい」と勇気を奮った本著。支援者への感謝と、同じ日本で暮らす脱北者への励ましがこもる。(道面雅量)(アジアプレス出版部・1365円)

(2013年11月24日朝刊掲載)

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