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社説・コラム

社説 対イラン協議合意 中東非核化へつなげよ

 一時は米国やイスラエルと、一触即発の危機もあった。そのイランの核をめぐる状況が大きく転換しつつある。

 イランは、欧米など6カ国と協議し、ウラン濃縮を制限することで合意した。見返りに欧米側は経済制裁の一部を緩和する方向という。

 穏健派のロウハニ大統領が誕生し、国際社会との対話の道が広がったこと。また長年にわたって経済制裁を科され、国内に不満が渦巻いていたことが軟化の背景にあるのだろう。

 この動きは評価できよう。国際社会は連携して知恵を絞り、さらに中東全体の非核化へとつなげるべきであろう。

 合意された共同行動計画のうちまず注目されるのは、6カ月間の「第1段階」合意である。それによればイランは5%超の濃縮ウランの製造をやめ、高濃縮ウランは核兵器に転用できないよう処理する。プルトニウム製造につながる実験用重水炉の建設も中断するという。

 ただ3・5%程度の低濃縮ウランについては「備蓄総量を増やさない。新規製造分は酸化物に加工」と曖昧さも残る。

 米国側は、ウラン濃縮の権利を与えたわけではないという。一方でロウハニ大統領は「平和目的の原子力利用と濃縮を継続する権利が認められた」としているようだ。こうした解釈の違いを理由に、合意事項の履行が遅れる恐れはある。

 ただ同時に盛り込まれた「包括解決策」は、将来の核問題の解決へ道筋をつけているといえる。

 そのポイントは大きく二つあろう。まずイランが「いかなる状況下でも核兵器製造を追求しない」ことを記す点。そして「イランは国際原子力機関の抜き打ち査察を可能にする追加議定書を批准、履行する」とすることだ。

 イランはこれまで、エネルギー利用を隠れみのに原子力を核兵器に転用する疑惑がささやかれてきた。今回、これまで以上に歩み寄りがうかがえる。

 協議は緒に就いたばかりで、なお曲折も予想される。国際社会はこの行動計画に沿ってイランが合意事項を守るよう監視と査察、そして制裁緩和のバランスをとることが求められる。

 大切なのは、イラン問題を契機に中東全体の非核化へつなげる視点である。

 イランと対立するイスラエルは、今回の協議を「歴史的な誤り」と反発を強めている。合意内容では、イランの核兵器開発が続く可能性も残るとの見方だろう。

 ただイスラエル自身が事実上の核兵器保有国である。しかも核拡散防止条約(NPT)に未加盟のままだ。こうした状況下でイランを指弾しても、国際社会の理解は広がるまい。

 同盟関係である米国の対応も焦点になるだろう。イスラエルに肩入れするばかりではなく、中東の非核化へ向け両国がテーブルに着くようさらに指導力を発揮することを求めたい。

 今後さらに重要になるのは日本の役割である。岸田文雄外相は今月、イランを訪問し、核交渉責任者と会談している。

 日本はイランと歴史的に友好関係があり、欧米とは異なる立場から説得する意義は大きい。今こそ平和外交の力を見せてほしい。

(2013年11月26日朝刊掲載)

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