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社説・コラム

『言』 被爆地と外国人観光客  市民と接する「仕掛け」を

◆ポール・ウォルシュ・広島経済大助教

 日本を訪れる外国人の数がことし、早くも過去最高を更新した。被爆地・広島市への観光客も増えているが、滞在時間は短いという。もっと多くの人が足を運び、より長く過ごしてもらうにはどうすればよいのか。外国人向けの観光情報をインターネットやガイドマップで発信する英国出身のポール・ウォルシュ広島経済大助教(45)に聞いた。(聞き手は論説委員・金谷明彦、写真・高橋洋史)

 ―ことし来日した外国人は既に865万人を超えました。広島市でも観光客が目立ちます。
 特に欧州や米国から初めて来た観光客の場合は、日本を旅するルートがだいたい決まっています。滞在日数は平均で10日間ぐらい。移動手段は新幹線が多く、まず東京を見て回った後、京都に行き、その次は広島です。日本で絶対行ってみたい場所の3番目には入ります。

 ―確かに広島市は他の地域に比べて欧米の観光客が多いですね。なぜでしょう。
 原爆が落とされた街が今、どうなっているのかを見たいという人が多いのだと思います。観光客の大半は最初、原爆と平和を結び付けていません。しかし原爆資料館を訪ねると、考えが変わる人が多いようです。

 ―資料館と原爆ドーム。世界最大の旅行口コミサイトでは外国人に人気の日本の観光地ランキングで2年連続1位でした。
 資料館が支持されているのは、多くの外国語で音声ガイドやリーフレットが用意してあるからでしょう。展示の説明もとても分かりやすいです。

 日本の観光地の場合、外国語で書かれた説明は日本語から直訳されたものがまだ多いと感じます。例えば、日本人なら誰もが知っている人物も外国人は分からないケースがあります。原爆資料館のように、もっと丁寧に説明してもらいたいです。

 ―外国人観光客は見てどう感じるのでしょう。
 悲惨な被爆の実態を知り、多くの人がかなり落ち込みます。私が勧めているのが、資料館から出た後、平和記念公園の静かな場所に座って、いろいろと考えてみることです。気持ちを整理し、本通り商店街などの繁華街に戻れば、復興のメッセージがすごく伝わってきます。

 しかし広島にある程度、滞在しないと、そのメッセージが分からないかもしれません。残念ですね。

 ―滞在時間は短いと聞きます。
 京都のホテルに泊まったまま、新幹線の日帰りで広島を観光する人も目立ちます。広島に宿泊する場合も、旅のルートの終わりになるため、帰国が迫っています。滞在を延ばしたいと思っても難しいのです。

 ―どうすれば、もっと長く滞在してもらえますか。
 一つのアイデアですが、広島を日本での旅のルートの始まりにしてもらうために、外国人観光客向けの日本語の講座をここで開くのはどうでしょう。少しでも言葉が通じれば、日本の人たちの反応がとてもフレンドリーになります。

 特に広島市の市街地はコンパクトで、外国人でも歩きやすいと思います。今でも居酒屋やお好み焼き店で地元の人たちと触れ合った観光客は、満足度が高いのです。その後の旅も、ずっと楽しくなるでしょう。

 ―観光客が訪日する前に、広島の情報をどう発信するかも重要ですね。
 そのためには公衆無線LANサービスを街中に整備していくことが不可欠です。今はフェイスブックなどソーシャルメディアが人気で、日本を訪れた観光客が写真を撮ると、すぐに本国の友人たちに紹介したいと思うのです。原爆ドームや宮島以外の街の写真が多数、ネットに掲載されれば、広島の大きなPRになります。

 ―最近はアジアからの観光客も急増しています。
 例えば、中国の観光客は今、日本で家電製品などの買い物をするというイメージです。しかし中国でも高性能の製品を買えるのが当たり前になるでしょう。そうなれば、買い物よりも日本の文化に関心が高まり、欧米の観光客の見方と似てくるのではないでしょうか。10年後を見据えれば、観光客がいかに日本の文化や人々と接する「仕掛け」をつくれるかが鍵だと思います。

  ポール・ウォルシュ
 英国生まれ。ブリストル大史学部卒。シェフィールド大大学院日本研究修士課程修了。91年外国語指導助手として来日。96年に再来日し、広島市の英会話学校の講師になる。01年から現職。英語の授業を担当する。広島の街の魅力を英語で伝える情報サイト「ゲット・ヒロシマ」を運営し、ガイドマップも年1回発行している。

(2013年11月27日朝刊掲載)

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