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社説・コラム

社説 秘密保護法案採決 国民の懸念置き去りに

 国民の懸念を置き去りに数の力で押し通す。そんな政府・与党の姿勢に強い疑問を抱く。

 臨時国会の焦点、特定秘密保護法案がきのう衆院を通過した。自民党と公明党が、みんなの党の賛成を得て特別委員会採決を強行し、本会議も通した。

 しかし運用次第で「知る権利」を危うくする法律だ。慎重にも慎重に取り扱わなければ禍根を残す。大半の野党の反発は当然であろう。

 論戦の舞台は参院に移ることになる。今度は良識の府としてのチェック機能が問われる。

 法案への疑問は衆院の審議を通じ、解消されるどころか膨らんだと言わざるを得ない。何より根幹部分の危うさだ。

 時の政権の意向で外交、防衛、テロ対策など広い分野の「特定秘密」を一方的に決められること。そして漏らした側ばかりか、情報を得た報道機関や市民も場合によっては厳罰を受ける可能性があることだ。

 政府側は、知る権利や報道の自由は尊重すると繰り返し説明する。ただ国会答弁をまとめて言えば、政府を信頼してくれ、ということだろう。度を越した拡大解釈の余地を法案が残す以上、不安は拭いがたい。

 「政府にとって最大の秘密は国民に知られて都合の悪い情報なのだ」。沖縄返還をめぐる日米密約を暴き、機密漏えいを唆したとして有罪判決を受けた元新聞記者の西山太吉氏の言葉だ。その意味は重い。

 むろん国家には一定の機密があろう。しかし国民の視点に立てば、その範囲はできる限り狭くするのが当然のことであり、アクセスする権利が損なわれていいはずがない。

 その点、みんなの党や日本維新の会が与党側と合意した中身は「修正」の名に値しない。秘密指定の妥当性を検証する第三者機関の検討や指定期間の見直しなどにとどまり、本質的な部分には手を付けなかったからだ。残念なことに、むしろ安易に妥協した感すらある。

 この土日の共同通信の世論調査では「知る権利が守られるとは思わない」との回答が62%に上った。首相と与党は、もっと国民の声を聞いてほしい。

 特別委がおととい福島市内で開いた地方公聴会も単なるポーズだったのではないか。与党推薦も含め陳述した全員が法案に懸念を示し、原発の情報がテロ対策を理由に隠される不安が出たのに無視された格好である。被災地をないがしろにしたと言われても仕方あるまい。

 参院でこそ徹底審議が求められる。民主党は秘密の範囲を絞り込むなどした対案を出した。その是非も含めてこの際、ゼロからやり直すべきである。採決ありきで議論をなおざりにする愚を繰り返してはならない。

 与党側からは、他法案に比べて衆院の審議時間は十分だった、と自賛する声が聞かれた。とはいえ民主主義の根幹に関わる話だ。いくら時間をかけてもいい。臨時国会は来月6日に会期末が迫る。もし時間切れなら廃案にして出直した方がすっきりするのではないか。

 重要法案での強引な採決は巨大与党のおごりにほかなるまい。他の法案審議にも響いてこよう。国会と世論に謙虚な姿勢に立たないと、今は高支持率の安倍政権にもつけが跳ね返ることを肝に銘じてもらいたい。

(2013年11月28日朝刊掲載)

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