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社説・コラム

なぜなに探偵団 民間の被爆建物、なぜ保存できないの?

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 広島市中区の本通り商店街に唯一(ゆいいつ)残る被爆(ひばく)建物、広島アンデルセン旧館(きゅうかん)の取り壊(こわ)しを、アンデルセングループ(中区)が検討(けんとう)していることが分かりました。耐震(たいしん)工事に多額の費用が掛(か)かるためです。存続策(そんぞくさく)も探(さぐ)りながら、来年中に結論(けつろん)を出します。

多額の耐震工費 負担大きい

 広島市が登録している被爆建物は、爆心地から5キロ以内に86あります。うち20は国や広島県、広島市など公共機関が所有し、残り66は民間が所有しています。

 広島アンデルセン旧館は2階建てで、8階建ての新館とつながっています。爆心地からの距離(きょり)は360メートル。被爆当時は、帝国(ていこく)銀行広島支店で、屋根が抜(ぬ)け落ちるなど大きな被害(ひがい)が出ました。1967年にアンデルセングループの創業(そうぎょう)者が購入(こうにゅう)し、パン販売(はんばい)店になりました。

 爆心地付近に残っている建物は実は、そう多くありません。爆心地から1キロ以内にある代表的な建物は原爆ドームです。所有する広島市が保存(ほぞん)工事を繰(く)り返し、96年には世界遺産(いさん)に登録されました。

 広島市は、「被爆の実態(じったい)を後世に伝える貴重(きちょう)な財産(ざいさん)」である被爆建物を残そうと、93年度から登録を始めました。建て替(か)えなどで次々姿(すがた)を消す中、市民の間で保存を求める声が強まっていたからです。

 同じ時期に広島市は、民間の被爆建物の保存工事に対する助成も始めました。3千万円を上限(じょうげん)に、費用の4分の3を市が負担する仕組みで、これまで19の施設(しせつ)に2億2千万円余(あま)りが支払(しはら)われました。

 しかし、こうした助成制度(せいど)があっても、補修(ほしゅう)工事費がかさむという理由で壊された建物もあります。市が登録を始めた後も、老朽(ろうきゅう)化や再(さい)開発などで16が解体(かいたい)されました。ただ、取り壊された後、広島赤十字・原爆病院(中区)の窓枠(まどわく)のように、一部がモニュメントとして保存されたケースもあります。

 広島市の対応(たいおう)には制約(せいやく)があります。被爆建物の所有者に、取り壊さないよう強制することはできません。憲法(けんぽう)で保障(ほしょう)されている財産権(けん)を侵害(しんがい)することになるからです。

 広島アンデルセン旧館の場合、94年度の保存工事の時は2800万円余りの助成を受けました。1億5千万円を要した2001~02年の耐震工事の際は、2度目ということもあり、市の助成は受けませんでした。今後、東日本大震災(しんさい)を受けて耐震性(たいしんせい)を高めるには、工費が大幅(おおはば)に増(ふ)えることになります。保存する意義(いぎ)は分かっていても民間には大きな負担となります。

 被爆建物に詳(くわ)しい元広島大教授の石丸紀興(いしまる・のりおき)さん(72)=都市計画=は「耐震化には多額(たがく)の費用が必要で、今の助成制度には限界(げんかい)がある」と指摘します。重要な被爆建物については、民間の所有者が保存を選択(せんたく)できるよう、「市民の理解(りかい)を得ながら、広島市は制度の拡充(かくじゅう)や関連予算の増額(ぞうがく)などの対応を進めるべきだ」と強調しています。(増田咲子(ますだ・さきこ))

≪そもそもキーワード≫

原爆(げんばく)による建物の被害(ひがい)
 爆心地から2キロ以内にあった木造(もくぞう)を含(ふく)むほとんど全てが破壊(はかい)され、焼(や)き尽(つ)くされた。5キロ以内でも、大破(たいは)以上の被害を受けた建物が9割(わり)を超(こ)す

(2013年12月1日朝刊掲載)

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