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社説・コラム

天風録 「お使いヘリ」

 昨年の師走に帰らぬ人となった小沢昭一さんが葬送曲に選んでいた歌がある。「私の青空」。♪狭いながらも楽しいわが家~。人一倍の軍隊嫌いで「終戦の解放感」を思い出す一曲だったらしい。もとは米国ではやったジャズの定番▲その青空に米ネット通販の大手がお使い用の小型ヘリを飛ばすという。衛星利用測位システム(GPS)を使う無人機。庭先に舞い降りて注文の品を置き、飛び立つ。SF風の宣伝動画に見とれつつ妙な点に気付いた▲電線が一本も走っていないのである。日本なら山あいでも離島でも空を横切る。「電線は町の五線譜、音符は野鳥」と、ないとかえって寂しがる人までいるくらい。お使いヘリもトントン拍子で登場とはいくまい▲それに米軍の無人攻撃機は南西アジアの市民を何百人と巻き添えにしている。積み荷次第では…とあらぬ想像が広がる。監視カメラでも載せれば、ストーカーの手先になりかねない。街頭デモも標的になるかも▲冒頭の曲は♪夕暮れに仰ぎ見る 輝く青空~と歌い出す。空襲の記憶が遠くなる今、背を伸ばして大空を見渡せる幸福感は薄らいでいるのだろうか。防空圏だの何のと相当にきな臭いが。

(2013年12月5日朝刊掲載)

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