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社説・コラム

社説 特定秘密保護法案 議論尽くしたといえぬ

 参院はこれでも「良識の府」「熟議の府」の名に値するのだろうか。

 特定秘密保護法案が昨日、自民、公明両党の賛成多数により参院特別委で可決された。「数の力」で強引に押し切ったに等しい。

 恣意(しい)的に運用されれば、国民の知る権利や、憲法が保障する言論や表現の自由に重大な影響を及ぼしかねない法案だ。とりわけ慎重審議が欠かせない。

 特に参院は、議会制民主主義が陥りやすい「多数の専制」のブレーキ役を期待されているはずだ。これでは「参院不要論」が再燃してもおかしくはない。

 審議は計20時間ほどで、衆院の40時間超には及ばない。森雅子内閣府特命担当相らの答弁は迷走を続け、法案の欠陥は取り繕いようがなくなっていた。

 それでも昨日、「議論が尽くされていない」「なぜそこまで急ぐのか」という野党側の追及をよそに審議は打ち切られ、あっさり採決に移された。

 あまりに乱暴である。日本維新の会と、衆院審議の段階では与党に協力的だったみんなの党が退席したのもうなずける。

 審議がいかに拙速だったかは、「第三者機関」の設置をめぐるここ数日間の審議からも明らかである。

 安倍晋三首相はおとといの国会審議で、秘密の指定や解除の状況を監視する「保全監視委員会(仮称)」などの機関を設置すると発言した。

 与党が維新の求めに応じて法案を修正し、付則に「独立した監視機関」の設置検討を明記したことに基づくという。とはいえ具体的な話は唐突だった。与党議員にすら初耳だったようである。

 その陣容は「独立」から遠い。委員は秘密を扱う当事者である外務、防衛両省の事務次官級だという。官僚の決めたことを官僚がチェックすることになる。維新は「これでは第三者機関とはいえない」と批判した。

 すると与党はきのう、さらに別の監視機関を設ける方針を明らかにした。いかにも、野党を賛成に引き込むための付け焼き刃に見える。

 複数の監視機関の関係をどう説明するのか。役割分担をどう考えているのか。議論を新たに開始するのが筋だろう。

 国民に向けた説明も、お粗末である。アリバイづくりなら、その体さえなしていない。

 さいたま市内でおととい、地方公聴会があった。与党が単独で開催を決めたのはその前日。急きょ呼ばれた意見陳述人の弁護士は「何の前触れもなく実施して、国民の声を聞いたといえるのか」と訴えた。まっとうな疑問だろう。

 委員会は通したものの、さすがに野党側の反発を無視できなくなったのか。与党は昨日のうちに本会議で可決成立させる構えだったのを、会期末のきょうに先送りする方針に転じた。

 それでも法案の本質的な問題点が改まるわけではない。今国会での成立は見送るべきだ。

 昨年の衆院選と夏の参院選で自民党が大勝し、「ねじれ」が解消した。選挙結果が国民からの白紙委任だと思われては困る。自民、公明両党に巨大与党のおごりはないか。「決められない政治」からの脱却が多数の専制になるのなら、日本の議会制民主主義の将来は危うい。

(2013年12月6日朝刊掲載)

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