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社説・コラム

天風録 「虹の国」

 ♪婚約指輪が可哀想(かわいそう)だ―。ロックバンド爆風スランプの一昔前の歌にある。「アフリカの南 遠い国」のダイヤは誰の汗の結晶か、と。1990年にはメンバー2人が旅し、自由を求める黒人居住区の集会にも飛び入りした▲訃報を聞いたネルソン・マンデラ氏がこの年、釈放された。名誉白人なる日本人の「地位」は翌年消える。貴金属から清涼飲料まで、アパルトヘイトの国の輸出を日本の消費者も支えた。マンデラ氏が知らないはずはない▲だが制度を憎んでも、人間を憎む人にあらず。なぜ扇動的な演説をしないのかとの問いに、聞く人の心に和解の精神を吹き込みたいから―と答えている。晩年の自伝「私自身との対話」にある▲90年の初来日に当たって、広島訪問を希望したという。あの破壊からいかに復興したのか、人の再生とはどうあるべきか、恐らく強い関心を抱きつつ。実現しなかったが、お国の音楽団が被爆地で魂のリズムを刻んだ▲ラグビーやサッカーのW杯でも、国民融合の努力をいとわなかったマンデラ氏。「虹の国」の理想を掲げた。日本の天候のことわざに、朝に架かれば雨、夕なら晴れ、とある。願わくば夕虹の国であることを。

(2013年12月7日朝刊掲載)

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