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社説・コラム

『書評』 占領期・広島の文芸と統制 市文化協会部会が論考集 原爆表現への制限も紹介

 広島市文化協会文芸部会が、論考集「占領期の出版メディアと検閲(プレスコード)―戦後広島の文芸活動」を刊行した。2011年に広島市立中央図書館(中区)で開いた企画展の成果を中心にまとめており、被爆地広島での占領軍による言論統制の実態や、表現活動の興隆について紹介している。

 取り上げた分野は、散文▽総合雑誌・サークル誌・大学高校文芸誌▽児童文学▽詩▽俳句▽短歌―の六つ。終戦から約7年間続いた占領期に、広島で活躍した作家とその作品、次々と発刊された文芸誌、その中で生まれた原爆文学などについて掲載している。

 総論では、岩崎文人・広島大名誉教授が、占領期の文芸活動を概観。連合国軍総司令部(GHQ)がプレスコードを敷き、それに基づく検閲の実態を紹介。広島では、原爆に関する表現も制限の対象だったと説明する。一方で、戦時中の言論統制から解放され、雑誌の創刊や復刊が相次いだ点にも触れた。

 分野別の解説では、詩人栗原貞子が夫と1946年3月に創刊した総合誌「中国文化」が、創刊号で原爆を特集してプレスコード違反の指摘を受けたエピソードを紹介。児童向け雑誌「銀の鈴」創刊号も、「呪うべき原子爆弾」の「呪うべき」の表現に削除命令が出されたという。

 一方で、俳句が戦後間もない市民の娯楽として親しまれ、後に俳句や短歌の雑誌が相次いで創刊されたと紹介。広島大や市内の高校で誕生した文芸誌に触れ、若者の創作意欲の隆盛も伝えている。

 文芸部会長の山田夏樹さん(76)=安佐北区=は「外国軍隊による占領期の言論統制の中、広島でも多くの文芸誌が出版され、表現活動への情熱がうかがえる。その情熱は脈々と現在へ続いている」と話している。

 279ページ、1890円。勉誠出版(東京)。同部会の山本光珠副部会長Tel082(569)5992。(石井雄一)

(2013年12月7日朝刊掲載)

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