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社説・コラム

社説 秘密保護法成立 自由な社会 守れるのか

 多くの国民が疑念を抱く特定秘密保護法がおととい深夜、参院本会議で可決、成立した。

 科学者や作家、映画監督、俳優たちも相次ぎ反対を表明した。幅広い人が声を上げたのは、この法律が、戦後の日本が大切に守ろうとしてきた「自由な社会」を根底から損ねてしまう恐れがあるからだ。

 安倍晋三首相は「国民に不安や懸念があることも承知している。払拭(ふっしょく)していくよう努めたい」と述べていた。それなのに与党は、強引な国会運営に終始した。いっそうの不安を募らせた国民は少なくあるまい。

 保護法は公布1年以内に施行される。政府は今後、具体的な制度設計を進めるという。だが数多くの懸念が短期間で拭えるとは考えにくい。少なくとも当面、法の施行は凍結すべきだ。

本質は変わらず

 国家に保護すべき秘密はあろう。それを否定するものではないが、だからといって、この法がなければ支障を来すとも考えにくい。

 国会での質疑を通じ、本質的な問題には全く手が付けられなかった。まず防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野に及ぶ特定秘密の広さである。政府は保護法の目的について、今月4日に発足した国家安全保障会議(日本版NSC)などで外国から情報を得やすくするためと説明している。

 そうであれば、現在でも自衛隊法で秘密保護の仕組みがある防衛と、外交の2分野だけで十分だろう。とりわけスパイ活動やテロは解釈次第で、いくらでも範囲を広げることができる。

 後に取り消したとはいえ、自民党の石破茂幹事長は、保護法に反対するデモをテロになぞらえていた。テロの定義の曖昧さを与党の幹部自らが示したといえよう。これでは多数の国民が監視の対象になりかねない。

三権分立脅かす

 原発や基地に関する情報が、いま以上に覆い隠されるとの懸念も根強く残る。福島県や沖縄県の議会が、国会での慎重審議を求める意見書を可決したのは十分に理解できよう。

 さらに、三権分立を脅かす事態となりはしないか。特定秘密を指定するのは行政機関の長というが、実務は各省庁の官僚たちが担うだろう。内部の不祥事など都合の悪い情報までも特定秘密扱いにされかねない。

 国民から選ばれた国会議員にも把握できない情報が増えるかもしれない。国政調査権が制約を受ける事態となれば、立法府によるチェック機能が揺らぐ。

 さらに裁判では証拠が特定秘密として明らかにされないケースも想定されよう。それでは到底、公正な司法とはいえまい。

 そもそも情報は国民のものであって、官僚の所有物ではない。情報公開の仕組みがあまりにおろそかなのは、そこをはき違えているためではないか。

政権の「おごり」

 衆参両院の審議で焦点になったのは、秘密指定の妥当性をみる第三者機関の設置である。衆院では一部野党との修正協議で、法案の付則に設置を検討することを盛り込んだ。一方、参院審議では安倍首相や菅義偉官房長官が次々に新たな監視機関を設けると明らかにしたが、条文の再修正はなかった。

 政府が本気で取り組むというなら、きちんと法律の本体部分に規定すればよかったはずだ。

 安倍首相は今臨時国会を「成長戦略実行国会」にすると語り、多くの国民もそれを望んでいた。ところが実際は、所信表明でも全く触れなかった特定秘密保護法へと突き進んだ。

 こうした強引な手法は、本格的な国政選挙がしばらく予定されていないことが影響していよう。荒っぽい国会運営をしても有権者はすぐに忘れてしまう。もし政権にそうした認識があるとしたら、高い支持率におごっていると言うほかない。

 報道機関として私たちは今、権力を監視し、国民の知る権利を守るという自らの責務をあらためてかみしめている。国民の権利をゆがめる法を認めることはできない。たとえ施行されたとしても、私たちの自覚が揺らぐことはない。

(2013年12月8日朝刊掲載)

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