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社説・コラム

日韓関係改善への道 李丙琪駐日韓国大使に聞く 通信使ゆかり 広島は貢献を

 6月に着任した李丙琪(イ・ビョンギ)駐日韓国大使(66)が広島市を訪れ、中国新聞の取材に応じた。歴史認識などをめぐって冷え込んでいる現在の日韓関係に触れながらも、政治以外の分野で交流が深まっている点を強調。かつて朝鮮通信使との交流の舞台でもあった広島に「平和と繁栄に向けたさらなる貢献を」と期待を寄せた。発言要旨は次の通り。(聞き手・伊東雅之、写真・浜岡学)

 【現在の日韓関係】
 最近の韓日関係が難しい局面にあるのは事実だろう。進展と停滞を繰り返す両国関係だが、長い目で見れば絶え間なく発展してきた。特に、経済や文化などの分野に表れている。2012年の韓日間の貿易額は1032億ドル。日本は韓国の2位、韓国は日本の3位の貿易相手国だ。

 また、02年のサッカーワールドカップ(W杯)共催以降、日本では「韓流」が人気となったが、韓国でも「日流」が定着した。韓国人が好きな漫画ベスト10のうち六つが日本の作品。外国小説では断トツの30%を日本の作品が占める。

 民主主義と市場経済、人権などの価値観を共有し、経済協力開発機構(OECD)加盟国である両国が、北東アジアの不安定要素を取り除く努力をしていくべきだ。実際、国連などの国際舞台では、気候変動や環境問題、途上国支援、少子高齢化への対応などで積極的に協力し合っている。

 【歴史認識の問題について】
 両国が新たな時代を切り開くためにも、克服しなければならないのが、過去の歴史問題だ。日本政府と国民の皆さんには、加害者と被害者の立場の違いを認識し、相手の身になって考えてもらいたい。日本は世界の平和と繁栄へのリーダーになるべきで、そのためには近隣諸国との友好関係を固めることが出発点になる。

 村山談話と河野談話は、隣国と世界への約束を伴うメッセージだと思う。これを土台に信頼を積み重ねていくことが両国外交の出発点となる。その際、重要になるのが従軍慰安婦問題の解決だ。被害を受けた女性は56人、平均年齢も87歳になっている。早急に解決しなければ、永遠に両国間の負担要因となるだろう。

 【関係改善は】
 韓日関係は、さまざまな懸案で停滞しているが、いつか回復すると信じている。なるべく早く現状から抜け出せるよう、共に努力しなければならない。

 両国は、W杯共同開催を通して協力と相互理解の基礎を築いた。15年には国交正常化50周年を迎える。関係増進の新たな転機になることを期待している。

 【中国地方と韓国の交流の在り方】
 両国間の往来は年間550万人に上るが、広島だけで見るとそう多くない。韓国人にも関心のある朝鮮通信使について、関係自治体が、もう少し積極的に広報してもいいのではないか。例えば通信使が下関に寄港後、どこを経由し、どこに向かったのか韓国ではあまり知られていない。ゆかりの地域の開発とともに広報を進めれば、観光客誘致にも期待が持てるのではないか。

 通信使の渡航ルートなどを世界文化遺産にしようという韓日共同の取り組みは、通信使が朝鮮王朝と江戸幕府の文化交流に寄与した点からも実にいい話だ。両国の担当部署や民間団体で協議を重ねてほしい。

 【広島への期待】
 実は大学時代の1967年、参加した国際学生会議のプログラムで広島を訪れたことがある。広島市や県が世界平和のための会議を積極的に呼び掛けていると聞いている。世界で初めて原爆の悲惨さを経験した広島は、世界の反戦運動をリードできる地だ。世界の平和と繁栄に向け、広島の皆さんには、さらに貢献してもらいたい。

 【韓国人被爆者への支援について】
 韓国には現在2500~2600人ほどの被爆者がいると聞いている。その間、日本政府も健康管理などの面で支援してくれた。最近では大阪地裁が、日本国外の被爆者にも医療費支給の道を開く判決を出した。日本政府には引き続き韓国人被爆者に関心を寄せてもらいたい。

 中国地方に多く暮らす同胞にも行政的な配慮をお願いしたい。

イ・ビョンギ
 47年ソウル市生まれ。ソウル大外交学科卒。74年外務部(現外交部)入り。大統領儀典首席秘書官、国家安全企画部第2次長などを歴任。99年に慶応大客員教授。2日に広島市を訪れ、広島県日韓親善協会主催の集いで講演した。

(2013年12月12日朝刊掲載)

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