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社説・コラム

北朝鮮の張氏処刑 浅田正彦・京都大大学院教授に聞く 軍部台頭 核実験の恐れも

 北朝鮮の実質的ナンバー2、張成沢(チャンソンテク)・元国防副委員長の処刑を機に、朝鮮半島情勢が一気に流動化しつつある。国連の北朝鮮制裁パネル委員を務めた浅田正彦・京都大大学院教授(55)は、今後さらに同国の強硬路線が強まると予測。「1年以内に長距離ミサイル発射や核実験をする可能性がある」と警戒する。(聞き手は論説委員・東海右佐衛門直柄、写真・山崎亮)

 ―張氏が処刑された背景をどうみますか。
 若い金正恩(キムジョンウン)第1書記が自らの意思だけで、後ろ盾の叔父を処刑するとは普通考えられない。軍部強硬派が台頭し、権力のバランスが急速に変わりつつあるのだろう。

 ―今後どんな事態になるとみますか。
 軍の力がさらに強くなり、数カ月以内に長距離ミサイル発射の動きが出てくるのではないか。これまでもミサイル発射の後、国連が制裁を強め、それに反発する形で核実験を強行してきた。今回も同じように、1年以内に核実験に至る可能性がある。

 長距離ミサイル発射が成功し、米国本土が確実に射程圏内に入る状態になれば、米国にとって北朝鮮は現実の脅威となる。そうなれば米国は、北朝鮮が求める2国間交渉に踏み切る可能性が高い。

 ―日本などが求める6カ国協議ではなく、2国間交渉になれば、どうなるのでしょう。
 米朝が直接交渉すれば、米国は日本などの安全よりも、自国の安全を優先する合意内容を目指す。つまり日本などの安全を担保できない合意となる可能性がある。それは、現行の東アジアの安全保障環境を揺るがす。

 日本は米国に対し、米朝2国間交渉となっても、アジア全体を十分考慮して交渉、合意すべきだと、強く働き掛けてほしい。関係国がいかに連帯できるかが、非常に重要になる。

 ―なぜ北朝鮮の核開発を国際社会は制止できなかったのでしょう。
 国連の制裁が効かなかったことが大きい。問題の背景には中国の存在がある。たとえば北朝鮮からの貨物検査を強化しようとしても、中国の港を経由してしまうと積み替えられてもう分からない。各国がぜいたく品を禁輸措置にしても、中国がそのぜいたく品を輸出しているケースも多い。だから制裁は北朝鮮の民衆を苦しめるだけで、指導部にまで及んでいないのが実情だ。

 ―中国が今後、どういう措置を取るか注目されています。
 張氏は中国とのパイプが太いとされてきた。中国は今回の処刑に強い不満を持っているようだ。同時に北朝鮮も中国の言うことを聞く状態ではなくなりつつあるとの見方がある。習近平指導部がどう対応できるのか読めない。

 ―日本ができることは何ですか。
 国連で核兵器の不使用を訴える声明が発表されるなど、核の非人道性をクローズアップする考えが国際的に広まりつつある。核開発をたくらむ国にとって、人道的なアピールの効果は極めて限定的。ただ長い目でみれば、被爆国の訴えは着実に広がっている。核軍縮の勢いを着実につないでいくしかない。

 あさだ・まさひこ
 58年江津市生まれ。京都大大学院修了。岡山大教授などを経て99年から京都大教授。日本軍縮学会会長。

(2013年12月17日朝刊掲載)

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