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社説・コラム

『潮流』 流れるように

■松江支局長・冨田将嗣

 53枚のシートをプロジェクターで映しながら、流れるように説明する。入念な準備もしたのだろう。同じようなことを20回近く繰り返しているのだから、微修正を重ねて完成の域に近づいているのかもしれない。

 島根原子力発電所2号機の再稼働に伴い、国への安全審査申請に理解を得るため、中国電力が11月下旬から原発30キロ圏で重ねる説明会のことだ。これまで21回あり、先日、安来市の住民説明会を聞いてみた。

 福島第1原発の事故を教訓に、1千億円以上をかけて原発施設に安全対策を施すという。地震や津波のほか、火山の爆発、竜巻にも耐える構造にする。使用済み核燃料の搬出量など住民からの質問にも、立て板に水の答弁。流ちょうな説明を聞けば、なるほど原発は安全かなとも思う。

 だが、全て「国の基準に沿った措置」であるらしい。福島の事故は基準を超える「想定外」が重なった。再び「想定外」が起きれば、原子炉と周辺地域の安全を保証できるとは言い難いと思うのだが。

 地元では福島の事故後に3度、足元の原発事故に備えた避難訓練をした。30キロ圏の約46万9千人を避難させるには、相当な英知が必要なようだ。訓練のたびに課題が浮かび上がる。11月には、避難に必要なバス4800台の半分しか調達できないことも分かった。中電は「できる限りの対応をする」というが、円滑な住民避難に向けた回答はいまのところない。

 原発が立地する島根県と松江市は24日、中電に安全審査申請の容認を回答する。年明けから中国地方唯一の原発の再稼働に向けた動きが進む。国の審査終了後、中電はその結果を地元に説明し、再稼働の是非を仰ぐことになる。その時、想定外の事故も想定した具体的な避難方法を含む詳細を、流れるように説明できるのだろうか。

(2013年12月24日朝刊掲載)

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