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社説・コラム

社説 辺野古埋め立て承認 混乱広げる知事の説明

 基地の島の歴史に残る一日だったに違いない。

 沖縄県の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事がきのう、名護市辺野古沿岸部の埋め立てを承認した。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県外移設を求める姿勢を転換し、辺野古への移設を受け入れた。そうとしか言いようがない。

 だが知事は記者会見では「県外移設を求める公約は変わらない」と相反するような発言を繰り返した。県民ならずとも、理解に苦しむ話だ。

 沖縄の将来を左右する重い判断である。何より説明責任が問われるはずだ。そこが最初からおろそかにされた感がある。問題の決着どころか、むしろ混乱を広げたのではないか。

 普天間返還合意から17年。安倍政権からすればやっと懸案が前進したと安堵(あんど)していよう。県外移設を掲げていた自民党沖縄県連を半ば強引に翻意させ、年に3千億円を超す沖縄振興予算を約束するなど、あの手この手で攻勢をかけてきたからだ。

 これに対し、仲井真氏は大詰めの交渉で安倍晋三首相から負担軽減などの譲歩を引き出したとして首を縦に振った。そして自らの会見は県民に理解を求める場となるはずだったが、分かりにくいこと極まりない。

 埋め立ては環境保全の基準に適合しているから承認せざるを得ない。是非はともかく、最初の説明だけなら理解できよう。しかし、続く仲井真氏の論法には首をかしげざるを得ない。

 辺野古の完成までには順調でも10年近くかかる上、反対の声も強くて簡単ではない。それまでの間、危険な普天間を放置することは絶対に許されない。よって県外に機能移転するのが現実的だ、というものだ。

 正論に見える部分もあるが、それなら埋め立ては不要のはずだ。要するに自らの決断が多くの県民の望まない新基地建設に直結し、公約をほごにすることを認めたくないのだろう。

 政府側はこうした「言い訳」など無視する構えだ。知事の承認を受け、埋め立ての早期着手を目指す考えを表明した。

 とはいえ土壇場で露呈した政府と県側の温度差は、後々まで禍根を残すかもしれない。

 例えば仲井真氏が条件の一つとした普天間の5年以内の運用停止である。会見で知事は「首相のリーダーシップで道筋が見えつつある」と胸を張った。

 現実的には首相は言質を与えず、検討に向けたプロジェクトチームを置くにすぎない。米側があっさり拒絶する可能性すらある。そうなった場合、承認というカードを切った沖縄側は、どんなスタンスを取るのか。

 少なくとも知事の認識でうなずけるのは辺野古移設は簡単には前に進まないということだ。

 まずは地元の名護市長選が来年1月に迫る。知事の任期は12月まであるが、説明をめぐる混乱が続けば辞職を求める声が強まる可能性もある。こうした民意を問う場に加え、ジュゴンなど豊かな生態系をどう守るかなどの問題も解決していない。

 普天間返還の原点は、1995年の米海兵隊員らによる少女暴行事件に対する強い憤りだった。だからこそ、今よって立つべきは日米同盟強化や地域振興の視点ではない。安全保障政策に翻弄(ほんろう)される住民の不安である。そのことを国や県はくれぐれも忘れてはならない。

(2013年12月28日朝刊掲載)

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