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社説・コラム

社説 島根2号機の安全審査 住民の不安拭えるのか

 中国電力は25日、島根原子力発電所2号機(松江市鹿島町)の安全審査を原子力規制委員会に申請した。

 立地する松江市と島根県から、審査入り容認の言質を取った上での手続きである。

 県と市は「安全審査と再稼働の議論は別物」と強調したが、中電からすれば再稼働に向けた大きな一歩なのだろう。

 規制委が7月に適用を始めた新たな規制基準で審査される。かなりの難関となるのは間違いないがクリアすれば、中電は地元の自治体に再稼働の可否判断を求めるとみられる。

 自治体の側も住民の命と財産を守る立場で、あらゆる観点から安全対策上の課題を洗い出しておかねばなるまい。

 島根2号機を含む9原発の16基は、早くも安全審査の申請を済ませた。国内の商業用原発50基は9月から再び、全てが停止している。代わりの火力発電所で燃料費が円安ではね上がり、経営を圧迫している事情があるのだろう。  だが、審査はスムーズに進みそうにない。

 例えば、フィルター付き排気(ベント)設備である。事故時に原子炉格納容器から放射性物質を薄め、蒸気を大気中に逃すためのもので、据え付けが再稼働の条件とされている。そのベント自体に、技術的な課題が指摘されている。

 「本当に機能するのか、相当な議論を重ねる必要がある」と規制委の田中俊一委員長も強い懸念を示している。

 そもそも島根2号機は、東日本大震災で大事故を起こした福島第1原発と同じ沸騰水型の原子炉である。繰り返し指摘されている通り、福島第1原発は原子炉内の様子はもとより、事故の原因やメカニズムは解明しきれていない。

 そんな中でまとめた、いわば仮の基準が果たして妥当と見なせるか。不安を拭いきれない地元住民は多いだろう。

 原発事故の危険と隣り合わせの住民にとっては、事故後の避難体制も気掛かりなはずだ。安全審査の対象とは別で、これは自治体の責務である。

 地域防災計画が半径30キロ圏の自治体に義務付けられているものの、実効性や避難が長期化した際の想定などに甘さが指摘されている。

 島根、鳥取両県と6市などは先月、合同で住民の原子力防災訓練をした。災害にもろい鉄路を使って逃れる想定自体を疑問視する声も漏れていた。避難時に手配できるバスの台数も依然、足りない状態という。

 原発事故で自宅や古里を追われた福島の被災者の多くが3回目の年越しを余儀なくされる。原子力災害に伴う避難は一時的では済まないことを覚悟しておく必要がある。それは受け入れる側の体制にも関わる。

 中電に対し、島根県も松江市もくぎを刺した通り、規制委の安全審査をパスしたからといって自動的に再稼働容認の条件にはなり得ない。

 島根原発では、3号機がほぼ完成している。2号機の安全審査の進み具合によっては「次は3号機」という流れも当然、考えられる。そうなれば、福島の事故以来で初めての新規稼働となる。住民の懸念が置き去りにならないか、不断の検証を怠ってはならない。

(2013年12月29日朝刊掲載)

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