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社説・コラム

社説 PKO銃弾提供 「既成事実化」狙うのか

 政府は、南スーダンで国連平和維持活動(PKO)を展開する韓国軍に対し、国連を通じて、陸上自衛隊の銃弾1万発を無償譲渡した。現地の治安が急速に悪化していることを踏まえた「例外措置」という。

 韓国軍は、自国より追加物資が届き次第、返却する方針である。とはいえ、日本が国連や他国に銃弾を譲渡したのは初めてだ。武器輸出三原則から逸脱し、PKOをめぐる歴代政権の見解にも反する。

 安倍政権はかねて、武器輸出三原則の見直しを目指してきた。今回の措置を突破口に、例外としての実績を積み上げ、既成事実をつくる狙いもあるのではなかろうか。国民の合意なく、なし崩し的に武器輸出を緩和しようというのであれば許されない。

 PKO協力法をめぐっては、その曖昧さが以前から指摘されてきた。25条で物資協力について定めているものの、弾薬や武器が含まれるのか規定はない。このため「拡大解釈により、抜け道ができる」と懸念する声もあった。

 まさにその不安が現実のものとなりつつあるのではないか。

 歴代の政権は、この条項について日本からの武器・弾薬の提供は想定しておらず、仮に国連から要請があったとしても「お断りする」との答弁を繰り返してきた。それが今回、緊急性と人道性がある場合は提供は可能、と解釈を大きく変えた形である。

 しかし、肝心の緊急性をめぐっても、韓国側は「予備分を確保するため」とするなど見解が異なる。どの程度、切迫した状況だったのか、必要性があったのか不透明といえよう。

 併せて気になるのは、こうした重大な判断が、国連からの要請を受けた翌日、安倍晋三首相や菅義偉官房長官ら4人でつくる国家安全保障会議(NSC)で即決されたことである。

 従来、政府見解を大きく変える場合には、内閣法制局が慎重に審議を重ねてきた。

 しかし今回のNSCには議事録作成も法的に義務付けられておらず、検証も難しい。重大な判断が、国民の目の届かない密室で素早く決められてしまうことに、強い違和感を覚える国民は多いのではなかろうか。

 政府がスタンスを変えた根底には、安倍首相が掲げる「積極的平和主義」があるに違いない。

 今月閣議決定された国家安全保障戦略でも、武器輸出三原則の見直し方針が明記された。政府はまた、防衛装備品の輸出を成長戦略と位置づけるなど、防衛産業の育成を重視している。

 このまま武器輸出の見直しやPKOの活動拡大が進めば、憲法9条に抵触する事態にもなりかねない。

 南スーダンの治安が極めて危険な状態であることも忘れてはならない。今月中旬から、一部で戦闘状態となり、各地で民族同士の衝突も頻発しているという。内戦の懸念も高まる。

 さらに治安が悪化すれば、PKO参加5原則の一つである「紛争当事者間で停戦合意が成立」の条件を満たさなくなる可能性もある。

 自衛隊員に万一の事態が生じないよう、政府は撤退への議論を避けるべきでない。

(2013年12月30日朝刊掲載)

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