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社説・コラム

天風録 「10年後の世界」

 「年賀」の朱印を押した封筒が舞い込んだ。はてさて。宛名の脇に、投函(とうかん)した日付が2004年とあるので合点がいった。「合併後の10年先に届く手紙を書こう」。そのころ住んでいた島根県瑞穂町(現邑南町)の呼び掛けに応じたのだった▲まるで時間の缶詰が届いた気分である。封を切る前から家族で昔話に花が咲く。友達や家族が健在な時に書き残してくれていた「彼岸からの便り」に胸を熱くした方もいるのでは。町じゅうが当分、この話で持ち切りかもしれない▲手紙を出せずじまいになった少年を覚えている。彼にすれば気掛かりは10年後ではない。仲間外れの学校生活がつらく、今日明日をやり過ごすので手いっぱいだった。思い出話になっていれば、いいのだが▲1985年のつくば万博で21世紀最初の元日に着く手紙を募ったアイデアが、先駆けだったらしい。当時は郵政省の時代。官庁再編でばらされ、押しの一手の小泉純一郎首相の下でついには民営化路線にかじを取る▲その首相は10年前の元旦、靖国参拝している。松が取れるころには「戦時下」のイラクへ自衛隊派遣が始まった。振り返るにも先を向くにも、苦く重たい一昔である。

(2014年1月3日朝刊掲載)

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