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社説・コラム

社説 外交展望 続く混迷 多角化を急げ

 アジア外交をいかに立て直せるか。これが2014年の日本に課せられた最初の命題だろう。

 影響力に陰りが見える超大国の米国。軍事的な野心を膨らませ続ける中国。東南アジア諸国連合(ASEAN)では経済共同体の実現を目指す動きが加速している。このところ、国際情勢の潮流はめまぐるしい。

 変化を見定めつつ、長期的な展望を持った外交戦略の立案を急ぎたい。日本が孤立しつつある。そんな見方が一部に広まりつつあるからだ。

日米間に温度差

 安倍晋三首相が靖国神社を参拝した際、中国や韓国からの反発は日本政府としても織り込み済みだったろう。ただ、同盟国であるはずの米国から「失望している」との声明が発表されたことは、計算外だったのではないか。「遺憾」にとどまらず、やや突き放した表現からは日本に対するいら立ちや憤りさえうかがえる。

 沖縄県の尖閣諸島を含む東シナ海上空に中国が防空識別圏を設定した際も、日米間の温度差が鮮明となった。日本政府は、識別圏の撤回を中国に求める役割を米国に期待していたのだろう。ところが米国は撤回自体は求めず、運用面での注文にとどめた。事態の早期沈静化を狙ったといえよう。

 日米政府とも、両国の同盟重視で口をそろえてはいる。現実には、どうなのだろう。

 日本政府にはこれまで「米中冷戦」の時代を予期する見方もあった。アジア太平洋で米中の覇権争いが進んでも、米国との同盟関係を深めて中国をけん制する、とのシナリオであった。

 しかし実際には、やや異なる動きも見えつつある。米国は、中国に安全保障上の警戒をしながらも、経済的な結び付きを強めている。むしろ実利重視の視点で、米国の側から中国に接近しているとの見方まである。かつて日本が得意とした「政冷経熱」の手法さながらである。

米の威信揺らぐ

 背景には、超大国・米国の基盤が揺らいでいることがあるのだろう。あと数年で、中国は国内総生産(GDP)で米国を抜く可能性がある。そうなれば、世界はますます多極化する流れが強まるだろう。

 日本はこの状況を座視すべきではない。対米追従を基軸とした外交は、いずれ手詰まり感が増すことになりかねない。

 すでに世界における米国の威信低下は目に付きだしている。米政府が各国で盗聴していたことが暴露され、同盟国の間でも信頼が失われた。内戦が続くシリアへの軍事介入をめぐっても、決断が二転三転した。

 それが何より明らかになったのが、環太平洋連携協定(TPP)の交渉だった。昨年中には妥結する予定だったが、途上国との対立が埋まらず、打開策は見えないまま延期となった。TPP妥結がこのまま遠のく可能性も、ささやかれている。米国流スタンダードが世界を主導する時代は終わりつつあるともいえよう。

 こうした中、日本はどのような外交戦略を進めるべきだろうか。

 まず求められるのは、多角化であろう。ASEANなどの友好的な国々といっそう太く、強い連携の輪を築きたい。それを足がかりに中国への関与を強め、国際法に基づく秩序を訴えていくのも有効だろう。

衝突回避が第一

 これ以上の対立を、日中双方が控える冷静さも重要である。現状では尖閣諸島の周辺で不測の事態が起きかねない。衝突を回避するためには、防衛当局間で連絡体制の確立が急がれる。

 歴史認識で長くいがみ合いを続けることは、双方にとって利益にはなるまい。現実的な外交を模索し、協調関係を築き直す。それこそ、ことしの安倍政権に求められる外交方針のはずである。

(2014年1月3日朝刊掲載)

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