社説 核情勢展望 廃絶へ うまずたゆまず
14年1月7日
核兵器のない世界に向け、先頭に立つ意気込みがあるのかどうか。被爆国に寄せられる内外の視線はこれまで、期待と失望の双方が入り交じってきた。
これ以上がっかりさせないでと国際社会も被爆地も願っている。ことしは例年に増して、日本政府の振る舞いが注目を集めることになりそうだ。
政府は昨年秋、核兵器の非人道性と不使用を訴える国連での共同声明に初めて賛同した。口先だけで終わるのか、それとも次の一歩を踏み出すのか。
何より行動が問われている。まず4月に広島である軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合が試金石となろう。
核軍縮や不拡散のとりでにと、NPDIは日本とオーストラリアが主導して2010年に発足した。現在は12の非核兵器保有国が名を連ねる。
その外相らが被爆者との対話を踏まえ、廃絶への行動計画をどう描くのか。被爆地で開かれる会合の焦点はそこだ。
中国新聞社のインタビューに岸田文雄外相は「被爆地からしっかりとしたメッセージを発信し、核兵器のない世界へと前進させたい」と抱負を語った。
15年に開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議の成否を占う場ともなろう。被爆地が地盤の岸田外相は、果敢に討議をリードしてほしい。
さらに外相には、オバマ米大統領の被爆地訪問が実現するよう、懸け橋役も期待したい。
核軍縮の進展は、残念なことに、核兵器を保有する国の意志に左右される。そのリーダーが被爆の惨状に触れることは極めて大きな意味がある。
むろん米国に限らない。核を持つ国、持とうとする国の為政者はヒロシマ、ナガサキから目を背けてはいないか。
ただ被爆地がそう主張するたび、国際社会から問い返されてきた。では、当の被爆国政府の姿勢はどうなのかと。
政府は昨年、NPT未加盟のまま核兵器を保有するインドとの間で原子力協定交渉を再開した。合意に達すれば、原発関連の技術や資材の輸出に道が開く。しかし、それは同時に、軍事転用される危険性も生む。
さらに「積極的平和主義」を掲げる安倍政権はことし、集団的自衛権の行使容認へ動くとみられている。武器輸出三原則の見直し、すなわち有名無実化が一挙に進む懸念も強い。
一方、「核の傘」や在日米軍基地の抜本的な縮小についての議論が高まる気配はない。
東アジアは不安定であり、日米同盟は不可欠だと政府は言う。だが現状がそうだからといって、北東アジア非核地帯や核兵器禁止条約の実現を求める国際潮流とは一線を画す姿勢を今後も続けるのだろうか。
口では核兵器廃絶を唱えても行動が伴わないようでは、あの日の犠牲者にも、老いた被爆者にも顔向けができまい。
だからこそ被爆地は、体験を受け継ぎ、世界に発信する営みを続けていくと誓う。
公益財団法人ヒロシマ平和創造基金は市民から「平和サポーター」を募る。中国新聞社ヒロシマ平和メディアセンターはウェブサイトの多言語化を進めていく。いずれも平和発信を太く、強くするためだ。
核兵器のない世界を、諦めるわけにはいかない。
(2014年1月5日朝刊掲載)
これ以上がっかりさせないでと国際社会も被爆地も願っている。ことしは例年に増して、日本政府の振る舞いが注目を集めることになりそうだ。
政府は昨年秋、核兵器の非人道性と不使用を訴える国連での共同声明に初めて賛同した。口先だけで終わるのか、それとも次の一歩を踏み出すのか。
何より行動が問われている。まず4月に広島である軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合が試金石となろう。
核軍縮や不拡散のとりでにと、NPDIは日本とオーストラリアが主導して2010年に発足した。現在は12の非核兵器保有国が名を連ねる。
その外相らが被爆者との対話を踏まえ、廃絶への行動計画をどう描くのか。被爆地で開かれる会合の焦点はそこだ。
中国新聞社のインタビューに岸田文雄外相は「被爆地からしっかりとしたメッセージを発信し、核兵器のない世界へと前進させたい」と抱負を語った。
15年に開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議の成否を占う場ともなろう。被爆地が地盤の岸田外相は、果敢に討議をリードしてほしい。
さらに外相には、オバマ米大統領の被爆地訪問が実現するよう、懸け橋役も期待したい。
核軍縮の進展は、残念なことに、核兵器を保有する国の意志に左右される。そのリーダーが被爆の惨状に触れることは極めて大きな意味がある。
むろん米国に限らない。核を持つ国、持とうとする国の為政者はヒロシマ、ナガサキから目を背けてはいないか。
ただ被爆地がそう主張するたび、国際社会から問い返されてきた。では、当の被爆国政府の姿勢はどうなのかと。
政府は昨年、NPT未加盟のまま核兵器を保有するインドとの間で原子力協定交渉を再開した。合意に達すれば、原発関連の技術や資材の輸出に道が開く。しかし、それは同時に、軍事転用される危険性も生む。
さらに「積極的平和主義」を掲げる安倍政権はことし、集団的自衛権の行使容認へ動くとみられている。武器輸出三原則の見直し、すなわち有名無実化が一挙に進む懸念も強い。
一方、「核の傘」や在日米軍基地の抜本的な縮小についての議論が高まる気配はない。
東アジアは不安定であり、日米同盟は不可欠だと政府は言う。だが現状がそうだからといって、北東アジア非核地帯や核兵器禁止条約の実現を求める国際潮流とは一線を画す姿勢を今後も続けるのだろうか。
口では核兵器廃絶を唱えても行動が伴わないようでは、あの日の犠牲者にも、老いた被爆者にも顔向けができまい。
だからこそ被爆地は、体験を受け継ぎ、世界に発信する営みを続けていくと誓う。
公益財団法人ヒロシマ平和創造基金は市民から「平和サポーター」を募る。中国新聞社ヒロシマ平和メディアセンターはウェブサイトの多言語化を進めていく。いずれも平和発信を太く、強くするためだ。
核兵器のない世界を、諦めるわけにはいかない。
(2014年1月5日朝刊掲載)