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社説・コラム

ビジネスなう 日本IBM(東京)社長・マーティン・イェッター氏 「ビッグデータ」は経済にどんな影響を与えますか

解析で競争力向上 資源に匹敵の価値

被爆者の相談分析 広島の病院も支援

 ―モバイル機器などから発信され、蓄積される膨大な情報「ビッグデータ」に注目し、国内で事業展開を強めています。ビッグデータは経済にどんな影響を与えますか。
 ここ数年で携帯電話や自動車、防犯カメラなど多様な機器がインターネットで情報を発信するようになった。動画サイトや(短文投稿サイトの)ツイッターのような会員制交流サイト(SNS)も普及しデータ量は飛躍的に増えた。手書きのメモや映像まで電子データになる。人類が有史以来創り出した電子データの9割が、この2年で生まれたとされている。

 天然資源が乏しい日本にとってビッグデータは石油などの資源に匹敵する価値を持つ。解析し、仮説などを引き出して競争力を高められる。民間でも自治体でも、規模の大小を問わず、効率的に大量のデータを解析できるかが将来を分ける。

 ―データの活用は、中小企業には費用の負担が大きいのでは。
 外部のデータセンターに蓄積したデータやソフトウエアを利用する「クラウド」サービスの発達で、以前より低コストで導入できる環境が整った。クラウドに国境はなく、グローバル展開を目指す中小も利用しやすい。

 ―具体的にどんな取り組みをしてきましたか。
 IBMはこの分野で企業の合併・買収(M&A)を進め、データの収集や解析を戦略の柱の一つとしている。例えば、2009年から広島赤十字・原爆病院(広島市中区)を支援している。来院する被爆者や家族の年間数千件に及ぶ相談内容をテキストデータとして蓄積し、分析するための技術支援だ。

 病院側は「被爆者に共通の悩みや課題があるのでは」とみて導入した。担当者の経験や勘に頼らず、客観的なデータを基に相談への対応を改善している。今は相談者の表情や声の調子などの感情データも記録し、専用ソフトで分析している。

 ―昨夏、営業体制を見直しました。中国地方を含む西日本支社(福岡市)など4支社を地方に新設した狙いは。
 これまで接点のなかった地方の企業などにもアピールしたい。日本は米国に次ぐ世界2位のIT市場だ。中四国、九州地方だけでメキシコに相当する規模がある。データを基に立体物を造る3Dプリンターの登場は新たな産業革命ともいわれ、製造業が多い中国地方でも影響は大きい。

 農業の支援も強める。東日本大震災の被災地で復興に向けた支援に加わっており、6次産業化などの分野で手応えを感じている。

 ―日本IBMでは56年ぶりの外国人社長です。海外からトップを迎える動きをどう受け止めますか。
 グローバル化で消費者のニーズが多様化する中、経営にも多様性は必要だ。母国ドイツでは多くの大手企業が海外から経営陣を招いている。同じく輸出に依存し、イノベーションを重視する日本でも、多彩な国の人材が企業のリーダーになる状況は広がるだろう。異文化を経営に反映させることでよりよいサービスを展開できる。(山本洋子)

 ≪略歴≫ドイツ・シュツットガルト大大学院修了。86年ドイツIBM入社。ドイツIBM社長、米IBMのコーポレート・ストラテジー担当副社長などを歴任。12年5月から現職。ドイツ出身。

(2014年1月5日朝刊掲載)

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