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社説・コラム

社説 首相年頭会見 「好循環」は経済だけか

 ことしも経済優先―。その意気込みは伝わってきた。安倍晋三首相の年頭会見である。24日にも召集予定の通常国会について「好循環実現国会」と自ら銘打ち、「みんなで頑張れば夢はかなう」と呼びかけた。

 確かに日本経済の沈滞ムードは薄らいでいる。「この春こそ景気回復の実感を収入アップという形で国民に届けたい」と首相は言う。ただ手放しの自画自賛は少し早いのではないか。

 4月の消費税増税が、政権の命運を占う最大のハードルとなろう。エコノミストの間にも景気先折れを懸念する声が少なくない。とりわけ、回復の恩恵を実感できない人々の不安にどう対応するかが問われる。

 ことし安倍政権にとって内政面の最初の関門となるのが通常国会での論戦である。一般会計で過去最大に膨らんだ新年度当初予算案もさることながら、まず検証すべきは5兆5千億円もの本年度補正予算や、1兆円規模の企業減税の効果だろう。

 消費税率を引き上げても大丈夫なように、との狙いがあるからだ。低所得者層への一時給付金はあるが、抜本的な弱者対策には遠く、相変わらず公共事業も目立つ。減税措置にしても従業員の給料を増やす企業を応援するとはいうが、依然として厳しい経営の中小零細にどこまで恩恵が行き渡るだろう。

 国民全体からみて、円安などに伴う物価上昇に見合った賃上げにどこまで結びつくか、必ずしも見通せない。「好循環を全国津々浦々に至るまで広げていきたい」という首相の言葉に半信半疑の人も少なくあるまい。

 昨年の臨時国会では成長戦略の一環として産業競争力強化法と国家戦略特区法が成立した。今月には施策の実行計画をつくるというが、こちらの実効性も当然試される。

 もし消費税増税が裏目に出れば、今なお高い支持率を保つ政権にとって大きなダメージとなり、長期政権戦略も揺らぎかねない。国民に夢を振りまくだけではなく厳しめの現状認識も欠かせないのではないか。

 「好循環」が求められるのは何も経済だけではない。日中、日韓の外交関係も改善が求められる。昨年末の首相の突然の靖国神社参拝で、事態はいっそう複雑となったといえる。

 首相の会見では前提条件なしの両国首脳との会談を呼びかけたものの、具体的な打開策は示したとはいえまい。「常に対話のドアは開かれている」と述べるにとどまった。米国のみならず欧州連合(EU)などからも懸念の声が出ている。対応を誤れば日本が孤立しかねないことをもっと重く受け止めるべきではないか。

 こうした懸案を考えるにつけことしの安倍政権は、これまでのように順風満帆とは限るまい。ほかにも正念場を迎えるテーマは山積している。

 環太平洋連携協定(TPP)もそうだ。交渉が大詰めを迎えているが妥結のめどが立たず、日本が関税などで譲歩を求められる可能性もある。さらには国民に反対の強い原発再稼働をめぐる政治判断も求められる。

 臨時国会では、特定秘密保護法などをめぐって「数の論理」による強引な政治手法が目についた。これからは、丁寧な議論と、慎重な政権運営が求められよう。

(2014年1月7日朝刊掲載)

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