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社説・コラム

『論』 沖縄からの賀状 基地の行方 ともに考える

■論説主幹・江種則貴

 元旦に沖縄の地方紙論説仲間から賀状が届いた。ひとこと「勝負の年です」と書き添えてあった。

 ぐさりときた。言わずもがな、米軍基地、なかでも普天間の話だ。人一倍、使命感の強い彼のこと。これまで以上に報道の真価が問われるという自負心が、「勝負」の文字を書かせたに違いない。

 ことしは中国地方でも、普天間に関連する大きな動きが待っている。私たちも逃げられない、お茶を濁す報道では済まされないと、賀状を手に背筋が伸びる思いがした。

 事態は昨年の暮れ、にわかに慌ただしくなった。

 仲井真弘多(なかいま・ひろかず)沖縄県知事が米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設予定先である名護市の辺野古沿岸部をめぐり、日本政府からの埋め立て申請を承認したからだ。この春にも測量調査が始まりそう。

 普天間は「世界一危険な基地」と呼ばれる。確かに市の面積の4分の1を占め、市の人口密度は軍用地を除外して計算すると、広島市の中区には及ばないが南区や西区を上回る。そんな密集地にある基地をこの先も固定化してはなるまい。

 とはいえ、県外移設を公約としていた知事が、県内移設の前提となる埋め立てを認める。多くの県民ならずとも、ふに落ちない。沖縄全体の負担軽減にもつながらない。不自然な知事の「変節」は、さまざまな臆測を招いている。

 一方、この夏にも普天間から米海兵隊岩国基地へ、空中給油機15機が移転する。これも先月上旬、日本政府からの申し出を福田良彦岩国市長が受け入れる形で決まった。

 「目に見える形で沖縄の負担軽減を」と市長は語る。普天間に限らず国防について全国民的な議論が必要という主張も、その通りだろう。

 ただ空中給油機がどこで訓練し、地域にどんな影響を及ぼすのか、不明なことが多すぎる。政府がもっと地元に情報を提供しなければ、議論のしようもない。

 私たちはこれまで普天間の国外移設を提案してきた。現に、沖縄に駐留する海兵隊のざっと半分をグアムに移す予定であり、ハワイが誘致に名乗りを上げたこともある。

 しかも航続距離が長く、搭載能力も桁違いのオスプレイを昨年配備し、普天間の機能は高まった。沖縄県内ではなく国外に移すのが、それほどとっぴな話だろうか。

 それでも日米両政府が辺野古にこだわるのは「抑止力」が理由とされる。要するに、中国や北朝鮮に近いほど、にらみがきくというのだろう。しかし、少し離れた方がむしろ、基地が攻撃を受ける可能性は減る。

 さらに米海兵隊の主要な役割は、緊急時に世界各地の前線へ真っ先に赴くことであって、日本の防衛が最重要の任務とは限らない。国外移設への異論はあろうが、少なくとも沖縄に、あるいは日本国内に必要かどうか、詰めた議論があっても決しておかしくはないはずだ。

 それは日米同盟の本質といえる「核兵器による抑止力」とも関わる。「核の傘」は被爆国の防衛に不可欠なのか、米軍の通常兵器ではどこが事足りないのか。核戦争を真に思いとどまらせてきたのはヒロシマ、ナガサキの惨状だと考えるとき、核抑止力や核兵器の廃絶をめぐって思考停止したかのような現状が、いら立たしくてならない。

 もちろん話は集団的自衛権の行使容認や平和外交のありようとも密接に絡む。その意味でも沖縄の彼が言う通り、ことしは「勝負の年」にほかなるまい。沖縄の思いとも響き合いながら、とことん論じていきたい。

(2014年1月9日朝刊掲載)

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