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社説・コラム

社説 被災地の復興 厳しい現実直視しよう

 あの日から3年が迫ってきた。東日本大震災の被災者の胸中は期待と不安がないまぜになっていよう。ことしは復興への営みが正念場を迎える。

 明るい動きはある。例えばNHKドラマ「あまちゃん」の舞台となった岩手県の三陸鉄道は4月に全線復旧し、観光客の一段の増加が待ち望まれる。

 被災者の生活再建はどうか。仮設住宅に替わる災害公営住宅への入居や集団移転への動きなどが本格化しそうだ。ただ全体でみれば人手不足などもあって順調にいくとは限らない。

 一人一人の生活が軌道に乗るかどうかは、安定した雇用の確保も含めて見通せないのが現実だろう。

 「被災地の復興なくして日本の再生はない」。いくら安倍晋三首相が繰り返してみても、被災者からすれば時に空々しく感じるのではないか。自分たちの思いが、政権に軽んじられる局面も目立つからである。

 4月の消費税増税は、震災で職を失った人たちの生活も直撃する。円安に伴う物価上昇も続く。とりわけ被災地で増税への懸念が強いのも当然だ。

 環太平洋連携協定(TPP)を前提にした「攻めの農業」もそうだ。市場原理を優先した効率化の発想が見え隠れする。塩害や放射能汚染から復旧途上の農地が、いずれ切り捨てられる懸念は拭えない。

 加えて2020年の東京五輪に向けた浮かれぶりだ。何かと首都への再投資が語られ、一極集中の傾向が明らかに強まってきた。JR東海が全額負担するはずのリニア中央新幹線についても、ここにきて前倒しへ国費の投入を求める声が与党内にある。復旧のめどすら立たない鉄路をいくつも残す被災地との落差を感じざるを得ない。

 むろん復興予算は引き続き手厚い。通常国会に提出される補正予算案と新年度予算案を合わせると4兆2千億円が特別会計に計上される。一方、資材費や人件費の高騰のあおりで着手できない事業も目に見えて増え、復興の減速を招いている。

 アベノミクスを自画自賛する首相だが、こうした現状をもっと直視してもらいたい。

 求められるのは、あらためて被災者の目線に立つことだ。なかでも福島県内の状況は依然、深刻である。仮設住宅に約2万9千人が暮らし、「震災関連死」が直接の震災犠牲者数を上回ってしまった。

 政府は昨年12月に福島の復興方針を見直し、大原則だった「全員帰還」を断念した。さらに遅れが目立つ除染作業の期限をあっさり3年遅らせた。現実を見据えた対応ともいえようが、古里が遠のいていく人たちの嘆きは察するに余りある。

 景気回復ムードの中で被災地が埋没しないために、わたしたちも関心を持ち続けよう。

 この2月から3月にかけて中国5県を含む全国の大学生たち約2千人がボランティアで現地入りする計画がある。支援活動に加え、震災の記憶の共有も目的だという。心強い。

 3・11の教訓と復興の経験はほかの地域でも生かせるはずだ。人口減と高齢化の中で、地域の再生にどう取り組めばいいか。南海トラフ巨大地震などに向き合う防災力をどう育むか。それらを学ぶためにも、被災地と心を通じ合いたい。

(2014年1月10日朝刊掲載)

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