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社説・コラム

社説 名護市長選で現職勝利 「県外」 民意は揺るがず

 基地負担のたらい回しはごめんだ、という民意が明確に示された。政府は重く受け止めるべきである。

 沖縄県名護市長選がきのう投開票された。辺野古地区への米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設に反対する現職、稲嶺進氏が再選を果たした。積極的な推進を掲げた新人の末松文信氏との一騎打ちを制した。

 日米両政府が普天間飛行場の返還に合意してから17年。移設計画はなおも迷走を続けることが確実になったといえる。

 仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事は先月、移設工事の鍵となる辺野古沿岸部の埋め立て承認にかじを切った。政府が普天間飛行場の返還前倒しや、年3千億円台の沖縄振興予算を確保する方針を表明したことを高く評価した。

 ところが知事は、埋め立てを認めても県外移設は引き続き求めるという苦しい説明に終始した。普天間基地周辺の負担軽減策も、実現性が担保されているとはとてもいえない。

 名護市民だけでなく県民の反発を招き、県議会も知事に「公約違反」として辞任を要求する決議を賛成多数で可決した。そんな中での市長選だった。

 稲嶺氏に投じられた票は、工事開始に向けた手続きを進めた知事への批判票でもある。今年11月の県知事選の行方に大きく影響することは避けられまい。

 普天間飛行場の返還が喫緊の課題であることを、名護市民は十分承知しているはずだ。だが県内移設である限り、沖縄県内に在日米軍基地を集中させているという根本的な問題は変わらない。

 移設への協力によって得られる国の交付金などで地域振興を進める、とした末松氏の主張が一定の支持を集めたことは確かだろう。とはいえ大多数の市民は、基地負担と引き換えのお金にまちづくりを委ねるべきでないと考えたといえる。

 選挙結果は何より、多額の地域振興予算や基金創設を掲げる一方、知事に埋め立て容認を迫った安倍政権や自民党の手法に対する意思表示だろう。

 自民党の石破茂幹事長は選挙期間中、「基地の場所は政府が決めること」とし、移転受け入れを拒む現職をけん制した。

 外交、防衛政策が原則的に国の専管事項であることは事実だが、地方の意向をあまりに軽視した発言ではないか。強権的にすら思える。県民が反発したのも当然である。

 政府は移設計画に変更はないとしている。実際には、予定通りに進めることは著しく困難になったといえよう。作業用車両のための道路や、資材置き場設置のための港湾の使用などで市長の許可や市との協議が必要となる。いずれも埋め立て工事の着手に不可欠だが、稲嶺氏は拒否すると明言している。

 政府は、日米同盟を堅持するには沖縄の米軍基地が必要だと説いてきた。だが積もりに積もった「沖縄の怒り」という、不安定な足場に立って安全保障政策を構築する方が危うさをはらんではいないか。負担軽減策として米軍機の訓練移転などを打ち出しても、小手先の措置にすぎない。問題の根本的な解決にはなるまい。

 辺野古への移設の是非が真正面から問われた選挙だった。そこで示された民意を軽んじるなら、大きな禍根を残すだろう。

(2014年1月20日朝刊掲載)

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