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社説・コラム

社説 イラン核合意履行 平和的解決のモデルに

 イランは核開発問題をめぐる6カ国との合意に基づき、第1段階の措置である共同行動計画の履行に着手した。

 これから半年間、濃縮度5%を超えるウラン製造を停止し、既にある20%以上の高濃縮ウランを核兵器の材料に転用できないよう希釈する。プルトニウムを取り出せる実験用重水炉の建設も中断する。

 イランの不透明な核関連活動に監視の網を掛け、核兵器開発の可能性を封じる一歩といえる。その点については評価できよう。

 国際原子力機関(IAEA)の査察官はきのう、濃縮度20%のウラン製造が停止されたことを現地で確認した。滑り出しは順調に見える。イランは誠実な態度で履行を続け、欧米などとの信頼醸成を図ってほしい。

 対する欧米は、制裁で凍結された海外資産のうち原油売上金の一部をイランに送金することを認める。今後半年間は追加制裁も控える。欧州連合(EU)はきのう、禁輸措置などの緩和に早速踏み切った。

 第1段階の措置の成否が、今後の展開を左右するだろう。欧米に中国を加えた6カ国とイランは次のステップとして、年内にも包括的な解決策の取りまとめを目指すとしている。

 とはいえ道のりは平たんではない。「核開発は平和目的」というイランの主張はいまだ説得力を欠く。行動で示していくべきである。監視を担うIAEAの役割も重い。

 約束を守るべきは欧米も変わらない。気になるのは、米議会の対イラン強硬派が追加制裁法案の提出に向けた動きをみせていることである。米国内政治の都合でイランの保守強硬派を勢いづかせれば、「歴史的」とも評された合意への努力は水泡に帰すことになりかねない。

 今後の焦点の一つは、ウラン濃縮活動を最終的に認めるかどうかだろう。権利を主張するイランと、難色を示す欧米が対立する可能性がある。

 だが核拡散防止条約(NPT)にウラン濃縮を禁じる条文はない。核不拡散体制が原子力の平和利用を前提としていることの限界でもある。

 まずIAEAの査察を強化する追加議定書を批准させる。その上で、核関連活動を平和目的に限定するという担保を確実に得るしかない。

 中東は大量破壊兵器をめぐって混迷を深めている。イランと対立するイスラエルによる核施設の空爆計画が、何度も取り沙汰されている。イランの核問題が解決に向かえば、中東の安定化にも資するはずだ。

 イランの一連の動きは、昨年のロウハニ政権の発足を抜きに語れない。何より経済制裁の効果だろう。欧米は「対話と圧力」をかみ合わせ、軍事対立に発展させない形で交渉に持ち込んだといえる。最終的な成果につなげ、核拡散を平和的に食い止めるモデルとなってほしい。

 制裁解除によって疲弊した国内経済と国民生活を立て直すことができ、自国の安全も高まる。同列に論じられないとはいえ、核兵器に固執する北朝鮮へのアピールにはなるはずだ。

 核兵器を持とうとする国が現れないよう、あくまで外交努力で芽を摘む。当然ながら、核兵器廃絶に向けた最低限のプロセスでもある。

(2014年1月21日朝刊掲載)

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