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社説・コラム

社説 東京都知事選 電力大消費地の判断は

 猪瀬直樹前知事の辞職に伴う東京都知事選がきょう、告示される。有権者の都民からすれば、わずか1年余り前に一票を投じたばかりなのに、という思いもあろう。

 ただ今回の都知事選は都民に限らず、多くの国民が関心を寄せているのは確かである。「脱原発」が主要な争点に浮上しているからだ。

 国のエネルギー政策の根幹に関わる原発政策は、首都とはいえ地方選挙である都知事選の争点にはなじまないとの意見も強いようだ。果たして、そうだろうか。

 1300万人が暮らす東京都は、日本全体のほぼ1割の電力を使う最大消費地である。それなのに、都内に原発はない。遠く離れた東北などの原発に電力供給を依存してきた。

 こうした状況を踏まえれば、今後の原発政策がどうあるべきかを、都民が自らの問題としてしっかり考える必要があるはずだ。今回の選挙をその機会にしてほしい。

 都知事選にこれまで名乗りを上げたのは、前日弁連会長の宇都宮健児氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏、元厚生労働相の舛添要一氏、元首相の細川護熙氏ら。計10人以上が立候補する動きを見せている。

 現時点では、原発政策をめぐる各立候補予定者の主張は、大きく脱原発と原発維持に分かれている。さらに脱原発の中でも、再稼働そのものを認めない原発の即時ゼロから、中長期的に依存度を下げるという意見までが聞かれる。

 これまでも東京都はエネルギーの問題に関わってきた経緯がある。都は東京電力の株主に名を連ねている。猪瀬前知事は副知事だった一昨年6月、東電の株主総会に出席し、経営改革の徹底を迫った。

 政府も今回の都知事選を強く意識しているのは明らかだ。原発を「基盤となる重要電源」と位置づけたエネルギー基本計画を今月中に閣議決定する予定だったが、先延ばしした。

 都知事選の争点として、原発政策がこれ以上、クローズアップされるのを避けたい意図があるのだろう。選挙の結果によっては、原発の再稼働に大きな影響を及ぼす事態が十分に考えられる。

 さらに、再生可能エネルギーの普及や省エネの促進については都が主体的に進めることができる。先進的な取り組みが実現すれば、首都を全国のモデルにするのも可能ではないか。

 原発政策でもう一つ、都民に考えてほしいのは、電力をつくった後に出てくる「核のごみ」も地方に押しつける形になっていることだ。東電を含め全国の原発などには、合わせて1万7千トンもの使用済み核燃料がたまっている。

 高レベル放射性廃棄物の最終処分場について政府は先月、自治体が応募する従来の方式から、国が候補地を示す方式に変えることを決めた。だが全くめどは立っていない。いずれも頓挫したが、過去に名前が挙がったのは、首都からは遠い地方ばかりだった。

 福島県の多くの人から古里を奪った福島第1原発は、東京都をはじめとする首都圏に電力供給していた。少なくとも、その重い事実は、肝に銘じてもらいたい。

(2014年1月23日朝刊掲載)

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