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社説・コラム

『論』 温泉発電 資源の湯 もったいない

■論説委員・金谷明彦

 ひな壇のように旅館や公衆浴場が立ち並ぶ山あいの景観は、独特の風情を感じさせる。1300年余りの歴史を持つ江津市・有福温泉だ。この温泉地が、いで湯の熱で電気をつくる「温泉発電」に乗り出そうとしている。

 日本の地熱資源は米国、インドネシアに続き世界3位とされる。温泉発電は潜在力が大きい地熱のエネルギーを有効に使う一つの方法だろう。

 有福温泉の地元が関心を持ったのは、一昨年に再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が始まったのがきっかけ。国などの助成金を活用し、自治会や旅館業者が事業化に向け調査を進める。

 13カ所ある泉源は全て自然湧出で、温度は47度。入浴施設での利用には適しているが、発電には低すぎる。

 温泉発電は沸点の低いアンモニアなどの物質を湯で温めて気化させ、タービンを回す仕組みだ。地下のマグマで熱せられた高温の蒸気を使う従来の地熱発電より低い温度でいいとはいえ、最低70度は必要とされる。そのため発電用の新たな泉源を掘削する計画を立てている。既存の泉源に影響を与えないよう細心の注意を払う。

 今後、地元住民や旅館業者が出資する新会社を設立し、2016年度を目標に発電を始めたいという。それほど大きな発電量は見込めないため、売電だけではなく、地域のハウス栽培の農家などに暖房の熱源として供給することで採算を取る考えだ。

 観光客が減少傾向の中、地域の新たな収益源にする狙いもある。有福温泉町連合自治会の盆子原温会長(64)は「温泉発電を新たなまちづくりの核にしたい」と語る。

 人口減少社会を迎え、客の落ち込みは多くの温泉地が抱える共通の悩みといえる。発電事業は売り上げの減少を補う一案となろう。

 有福温泉の6軒の旅館・ホテルが出資し共同の観光事業を手掛ける運営会社、有福振興の樋口忠成社長(41)には別の思いもある。「せっかくの温泉をエネルギー供給のためにも使うべきだ。火山帯ではない地域の発電事業モデルをつくりたい」という。

 ここ数年で本格化した温泉発電は火山帯が貫く九州や東北が中心だ。例えば大分県の別府温泉では20世帯分に当たる60キロワットを発電し、昨年2月から九州電力に販売を開始した。福島市の土湯温泉は来年の運転開始を目標に、400キロワットを発電する計画を進める。

 これらの地域では、湯の温度が高く量も豊富なため、既に湧き出している湯をそのまま使えるケースが多い。発電を始めやすいのは確かだろう。ぜひ積極的に取り組んでもらいたい。

 ただ温泉発電が火山帯に限られれば、日本全体の再生可能エネルギーを底上げする面で物足りない。中国地方をはじめ全国各地に温泉はある。

 火山帯がない地域でも発電事業が成り立つモデルができれば、さらに取り組みは広がるだろう。より高効率の発電装置の開発も求められる。

 一方、従来の地熱発電の普及がこれまで進まなかったのは、火山帯にある適地の多くが国立公園内にあり、開発規制が厳しかったからだ。

 その地熱発電にも新たな動きがある。国が規制を緩和したこともあり、九州や東北で地表調査や試掘が進められている。ことし4月には、新たな地熱発電所が国内では15年ぶりに熊本県で稼働する。

 日本の地熱資源は原発23基分に相当するといわれながら、現時点では地熱による発電量は国内全体の0・3%にすぎない。その活用は重要な課題である。同時に、国立公園などとして守ってきた景観や環境と両立できるのか、配慮を忘れてはなるまい。

(2014年1月23日朝刊掲載)

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