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社説・コラム

社説 通常国会開幕 日本の行方決する半年

 きのう通常国会が召集された。6月下旬までの会期中は消費税増税をはじめ、さまざまな懸案が動く時期と重なる。国の将来を考える上でも、この半年の論戦は大きな意味を持つ。

 安倍晋三首相の施政方針演説からは高揚感が伝わってきた。この際、満を持して自らのカラーを鮮明にしたのだろう。景気回復が最優先だとして国会演説では封印してきた集団的自衛権にも言及し、行使に向けた憲法解釈変更に意欲をにじませた。

 一方で、看板の経済政策は新味に乏しい。「やればできる」といった掛け声が目立つ。例えば東北の被災地を「創造と可能性の地」と高らかにうたったのも違和感が残る。いまだ厳しい生活を強いられる人たちの現実を語らず、「希望」ばかり強調するのはどうなのか。

 いまアベノミクスの恩恵を受ける人と受けない人の落差が顕著になりつつある。増税への不安も根強い。こうした負の側面より楽観論を重んじる首相の物言いは、まず来週の代表質問でただされるべきであろう。

 とはいえ特定秘密保護法をめぐって大荒れだった昨年の臨時国会と違い、「対決型」の審議は当面少ないとの見方がもっぱらだ。野党の一部には安倍政権に接近する向きもある。しかし、なれ合いは許されまい。

 当面の焦点は合わせて100兆円を超す補正予算案と当初予算案となろう。補正分には増税対策の公共事業費なども盛り込まれている。政府・与党側からすれば、それぞれ粛々と衆参両院を通したいところだ。予算委員会もできるだけ省力化し、集中審議を絞り込むなど強気の国会運営を進める戦術と聞く。

 国会には国民の疑問をすくい上げる責務があるはずである。大企業優遇で家計に冷たい上に、歳出削減になかなかメスをふるわない。そうした政権の姿勢をただすとともに、不要不急の事業を洗い出す丁々発止の審議が要る。衆院の議決優先にせよ、参院審議を消化試合扱いするのはもとより論外だ。

 安倍政権の特色は「官邸主導」といえる。速やかな判断ができる面もあるが、与党に根回しせず前に進めるケースが増えて身内同士の不協和音を生んでいる。そのうえ国会審議すら軽視する空気が強まるとすれば、議院内閣制の根幹に関わる。

 日本が岐路に立つ今だからこそ国会の真価が問われよう。

 むろん議論すべきは目先の議案ばかりではない。首相が施政方針演説で触れなかった特定秘密保護法や靖国神社参拝についても、あらためて国会の場で姿勢を問うてもらいたい。

 さらには環太平洋連携協定(TPP)の交渉のヤマ場や原発再稼働の判断は、この春から夏場になりそうだ。集団的自衛権の問題にしても与党の公明党は慎重な姿勢だが、会期中に動きが具体化する可能性もなくはない。いずれも日本の行方を左右する話だけに、国会が十分なチェック機能を果たしていくのは当然のことである。

 通常国会にあたり、政府・与党は「前向きな議論を」と呼び掛ける。それには数を頼みの強引な審議をしないのが前提となろう。一方の野党側も、反対のための反対だけなら支持は広がるまい。言葉だけの楽観論なら打破できる骨太な論争力と、説得力ある対案が求められる。

(2014年1月25日朝刊掲載)

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