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社説・コラム

天風録 「方円の器に随う」

 水は方円の器に随(したが)う、という。それは鋳物にも当てはまろう。金属を溶かした「湯」を型に流し込んで、自在に物を作る技を磨いてきた鋳物の町広島。寺社の灯籠までも、たたけばカンカン音がして▲多くが現役を引退した手押しポンプもそうだ。津田式の鋳物のよさ言ふ友人のポンプは錆付き野井戸の飾り(宮本勝人)。「津田式」は大正の世に広島で考案され全国に普及する。元船乗りの歌人は帰農して、さびた道具を磨いた▲広島駅南口の津田式1基が原爆資料館で保存される。被爆以前にあったか定かではないが、復興の歩みを知るのは間違いない。それが再開発で撤去される。誰かの思いが詰まっているだろうに、という住民の声が報われた▲20年前の本紙で、津田式が日常使われる寺町通りのようすをルポしている。ピーク時には遠く及ばないが、当時はまだ月50基の製造が続いていた。方言なら、いちがいな(頑固な)というところ。広島人の心意気だろう▲方円の器に随う。転じて、人は周りに感化されやすい、という意に。NHK会長が「組織のボルトとナットを締め直したい」と語った。組織は適度に締めても、人は型にはめない方がいい。

(2014年1月27日朝刊掲載)

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