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社説・コラム

社説 一般教書演説 米外交の真価問われる

 オバマ米大統領が日本時間のきのう、向こう1年間の内政、外交の施政方針となる一般教書演説を行った。

 「米国の最も長い戦争はついに終わる」。大統領は、ことしが米国にとって節目になると自覚しているようだ。年末までにアフガニスタンでの米軍の戦闘任務を終わらせる、とあらためて強調した。

 2001年9月11日の米中枢同時テロからほどなく、米国はアフガンへの空爆を始めた。

 03年にはイラク攻撃にも踏み込んだ。米軍撤退が完了した11年末までに、米兵の死者は約4500人に上った。一方、市民は約11万5千人が犠牲になったと推定されている。

 イラク、アフガン両戦争を仕掛けた「大義」とともに、はるばる中東に武力で介入することへの疑問が米国民の間に噴き出しているのも当然だろう。

 その点、オバマ氏が今回の演説の中で「米国の安全保障の保持を軍事力だけに頼ることはできない」と述べた意味は重い。大規模展開した兵力が消耗すれば、結局はテロリストを利するとも指摘した。「最も長い戦争」から得た教訓だろう。

 「テロとの戦い」の幕引きはオバマ政権1期目からの公約である。国民との約束をやっと果たしたとはいえる。

 とはいえ、テロリストを生む要因がなくなったわけではない。イラクとアフガニスタンの市民にしても、とても戦争終結とは思えまい。むしろ混迷は深まっているからだ。

 イラクではフセイン政権が崩壊して以降、皮肉にもテロ集団が伸長しているとされる。自爆テロ事件が相次ぐ。アフガニスタンも安定にはほど遠い。

 隣国のパキスタンでは米軍が無人機攻撃を続ける。米国内の基地から遠隔操作し、多数の市民を巻き添えにしている。

 オバマ氏は今回、無人機の運用を減らす意向を示した。現地住民の反感を招けばテロリスト排除に逆効果だから、が理由のようだ。人道上の観点からの自省でないことは、極めて残念だというほかない。

 軍事介入が何をもたらし、何を奪ったか。米国は本当に現実を直視しているのだろうか。

 米国が「戦後」外交の軸をどう置くのかも、いまだ定まっていないようにみえる。

 大統領は「アジア太平洋への取り組み」を続け、同盟国を支えていくと強調しながらも、中国の軍事大国化や北朝鮮の核問題には触れなかった。「日本」という言葉も出なかった。

 半面、ウラン濃縮活動の制限を受け入れさせた対イラン交渉については「米外交が核開発の進展を阻止した」と自賛した。確かに、協調外交の成果ではあろう。

 では、自国の核兵器はどうするつもりなのだろう。「冷戦期からの保有核への依存度を減らした」と述べただけ。「核兵器なき世界」を唱えた4年前の一般教書演説がもはや、隔世の感がする。

 各国にある核物質の安全確保に貢献している、などと胸を張る前に、現在の核拡散状況をもたらした保有国の責任をもっと自覚すべきではないか。

 2期8年限りの米大統領にとって、2期目の外交成果は「遺産になる」といわれる。ここは初心に帰ってもらいたい。

(2014年1月30日朝刊掲載)

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