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社説・コラム

社説 NHK会長発言 「公共」の原点 再確認を

 就任早々、国会中継で陳謝の言葉を述べたのは皮肉だった。

 NHK新会長の籾井(もみい)勝人氏がおとといの衆院予算委員会で、就任会見での一連の失言について「誤解と迷惑を掛けて誠に申し訳ない」と頭を下げた。

 「私的なコメント」で「全部取り消した」と弁明した。公的な会見の場で、そんなことが通ると思っていたのだろうか。波紋は海外にも広がっている。公共放送のトップであり、ジャーナリズムを率いる者としての自覚が問われる。

 問題となった一つは、従軍慰安婦をめぐり「どこの国でもあった」とし、「なぜオランダに今も飾り窓(売春街)があるのか」とした発言である。

 さまざまな意見が交錯する問題である。しかし、戦争中だったことや他国を引き合いに、女性への性暴力を正当化すべきでない。従軍慰安婦問題を現代の売春と同列に論じるのも、軽はずみに過ぎよう。

 反対の世論が多かった特定秘密保護法については「(法案が)一応通ったので、もう言ってもしょうがない」とした。

 政府の代弁者にすぎないとも受け取れる発言で、これでは視聴者の信頼に応えられまい。

 受信料が主な財源の公共放送は、国営放送とは別物である。良質な番組制作への期待から支払いに応じている人も少なくないはずだ。

 放送法は多角的な論点の提示を定めている。予算委でもその点をただされ、籾井氏は「不偏不党や公平公正、表現の自由などの原則を守って放送することに変わりはない」と釈明した。

 お題目にとどまらず、体現できるかどうかだろう。

 政府がてこ入れを強める国際放送についても、籾井氏は自ら領土問題を持ち出して、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と答えていた。

 放送法では、政府が事項を指定してNHKに国際放送を「要請」できる制度がある。だが、あくまで努力義務であり、決して強制ではない。

 予算委では残念なことに、質問に立った議員の側から、そう諭される場面があった。ジャーナリズムの使命についてどの程度の自負があるのか、首をかしげざるを得ない。

 英国のBBCは、政権の意に沿わない報道もいとわないことから評価を得ているとされている。公共放送として、そこは譲れない一線なのだろう。NHKも、「国策」放送と見なされていいわけはない。

 予算委には、NHK経営委員会の浜田健一郎委員長も出席した。就任会見で個人的な見解を述べたのは公共放送のトップの立場を軽んじた行為だとして「遺憾だ」と述べた。だが、籾井氏を選んだのは、ほかでもない経営委である。任命の責任をどう考えているのだろうか。

 国会の予算承認が必要なNHKは、たびたび政治との距離が問われてきた。昨年から安倍政権に近い経営委員が選ばれている。会長発言は「政権寄り」の印象を強めた格好である。重く受け止めるべきだろう。

 籾井氏の意向が今後、報道や制作の現場に対する圧力となり、萎縮を招かないか。懸念する声が高まっている。報道の自由、編集権の独立を堅持してこその信頼である。公共放送の原点を再確認してもらいたい。

(2014年2月2日朝刊掲載)

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