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社説・コラム

『書評』 郷土の本 弱者の「強さ」希望見いだす

 尾道市出身の作家高橋源一郎さんが刊行した「一〇一年目の孤独―希望の場所を求めて」=写真=は、社会的弱者といわれる人たちを訪ね歩いたルポルタージュだ。

 ダウン症の子どもたちのための絵画教室や身体障害者の劇団、子どもホスピス…。国内外に足を運び、話に耳を傾けるうちに、そうした人たちの「強さ」に気付く。

 高橋さんは古里も訪ねる。引き合いに出したのは、尾道を舞台にした映画「東京物語」だ。都会に出て行く若者と、故郷に残る老夫婦との物語を自らの家族に重ねる。また、ある時は山口県上関町の祝島で、高齢の住民たちが約30年間続ける原発反対デモに加わる。

 中国地方の二つの地に通底するのは「老い」。人は弱い存在として生まれ、いつしかそのことを忘れる。老いると、再び弱さを知る。高齢化が進む日本は「緩やかに坂を下っているのかもしれない」と記す。そこに希望を与えてくれたのは、高橋さんが出会った人たちの生きざまだった。

 雑誌に掲載したルポ8本に加筆するなどして収めた。168ページ、1890円。岩波書店。(石井雄一)

(2014年2月2日朝刊掲載)

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