×

社説・コラム

『潮流』 楕円の効用

■論説主幹・江種則貴

 広島市の2014年度当初予算案の説明資料をめくっていて、数々の重点施策の冒頭に掲げてあったフレーズが目に留まった。楕円(だえん)形の都心づくり推進―。

 再開発により日々刻々と光景を変える広島駅周辺、都市機能が集積する紙屋町・八丁堀。二つの地区を中心軸に都心のにぎわいを形成するという、松井一実市長が就任以来こだわる都市戦略である。

 まず思ったのは楕円が持つ形としての妙味だ。広島の街に似合う気がする。

 69年前、あの閃光(せんこう)を見た原爆ドームの屋根が楕円の形をしている。真ん丸よりもはるかに施工が難しいはずだが、あえて採用したのは設計者ヤン・レツルの意気であろう。ネオ・バロック様式と呼ぶらしい。

 楕円は確かに、真円ほどわざとらしくなく、どこか人間味を感じさせる。自然との調和も思わせる。真理は楕円形だと言ったのは、思想家の内村鑑三だ。

 街づくりに話を戻そう。広島アジア競技大会が開かれた20年前、副都心と聞けば市民の多くが、メーンスタジアムや選手村ができた「西風新都」を思った。

 「そもそも広島の都市規模からして都心と副都心は両立しない」「地方都市だからこそ東京には負けられない」。市職員とよく議論したのも、その頃だった。

 二つの中心が均衡を保ちつつ緊張した関係にあり、それを大きな円で包めば物事は首尾よく運ぶ。そう唱えた大平正芳元首相の「楕円の理論」も思い出す。

 政界の処世術でもあろうが、都市戦略にも当てはまる。都心同士が、その魅力を磨き合ってほしい。

 円といえば、もう一つ。紙に書くときは普通、弧の内側を丸く塗る。でも外側を全て色づけしても、やはり円が浮かぶ。分かりきったことだが、街づくりも似てはいないか。周辺部が隅々まで輝けば、おのずと都心はきらめく。

(2014年2月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ