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社説・コラム

社説 都知事に舛添氏 東京「一人勝ち」は困る

 東京都知事選はきのう投開票され、自民、公明両党の支援を受けた舛添要一氏が新たな「首都の顔」に決まった。

 都民は、6年後となった東京五輪・パラリンピックの成功を願い、舛添氏の政治手腕に期待を込めたといっていいだろう。

 5千万円受領問題が発覚し、前知事が就任わずか1年余りで辞するという異例の事態を受けた選挙だった。その意味で新知事にはまず、都政の信頼回復への手だてが求められよう。

 今回の選挙戦では、細川護熙氏が立候補し、「脱原発」をうたう小泉純一郎氏が連日の応援演説に駆け付けるという元首相コンビの姿も話題を集めた。

 その細川氏の票は伸び悩んだ。とはいえ、それをもって、都民が脱原発を望んでいないと断じるのは早計に過ぎよう。

 舛添氏も「原発に依存しない社会の構築」を公約に掲げた。しかし選挙戦は、国策を争点にすべきか否かの論議が先行し、脱原発の具体的な道筋をめぐっては一向に深まらなかった。

 有権者からすれば、判断材料が乏しいまま依存か脱却かの二者択一を迫られても困る、という迷いもあっただろう。

 舛添氏の勝因として、自民党支持団体をこまめに回る組織選挙が功を奏したと指摘されている。思わぬ大雪は無党派層の投票率にも影響したに違いない。

 それ以上に、子育てのしんどさや超高齢社会への不安が、都民の投票行動に表れたとみていいのではないか。

 過疎地が先行してきた高齢化は今後、大都市で一気に進みそう。このままなら東京は早晩、医療機関も老人ホームも地方とは桁違いの不足を来すという。

 舛添氏が社会保障分野の訴えを重視したのは、こうした将来への危機感からであろう。待機児童への対策では、新築高層ビルへの保育所設置義務付けを掲げたのが目に留まった。

 厚生労働相を務めた経験を生かし、子育て世代や高齢者の不安解消につながり、他の自治体にとってもモデルとなるような力強い施策を望みたい。

 だが、地方には裏目ともなりかねない。医師や看護師、介護士らが職を求めて東京に集中すれば、地方は再び人材の供給拠点となるからだ。子育て世代が少なくなれば、過疎への歯止めもいっそう困難になる。

 五輪もそうだ。この機に公共事業を首都圏に重点投下すればするほど、人、モノ、カネの一極集中が再加速しかねない。それは地方の疲弊に直結する。

 舛添氏は、公約に盛った「安全、コンパクト、クリーンな五輪」を着実に具体化してもらいたい。経済波及効果をアピールするだけでなく、東日本大震災から復興した日本の姿を発信するという東京開催の原点を、国を挙げて再確認したい。

 過度の集中が気になるのは、マグニチュード(M)7クラスの首都直下地震が今後30年の間に70%の確率で起きるとされるためでもある。

 舛添氏は今回、「世界一安心・安全で快適な街づくりを進める」と訴えた。備えを急ぐのはもちろんである。ただ、減災のためには、首都機能の分散こそ不可欠ではなかろうか。

 都知事からは口にしにくいテーマだろうが、避けては通れまい。列島全体を視野に、国や各自治体と協議を始めてほしい。

(2014年2月10日朝刊掲載)

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