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社説・コラム

社説 中台の公式会談 東アジア安定の一歩に

 波風の立つ東アジア情勢の安定にも結びつくだろうか。中国と台湾の閣僚級同士が、きのう初めて公式会談を果たした。

 共産党の毛沢東が内戦に勝利して中華人民共和国を樹立し、蔣介石率いる国民党政権が台湾に逃れたのは1949年のことである。それ以来、互いに主権を認めず、当局間のまともな直接対話すらなかっただけに、歴史的な一歩といえよう。

 2008年に対中融和路線を掲げる馬英九氏が台湾の総統に就任してからは、経済分野の関係緊密化が加速してきた。今後は政治面の交流も本格化することになろう。

 南京市で会談したのは台湾大陸委員会の王郁琦主任委員と、中国国務院台湾事務弁公室の張志軍主任である。それぞれ相手に関する実務を担当する官庁のトップに当たる。相互訪問を含む対話のメカニズムをつくることで合意したという。従来は民間機関を窓口にした対話だっただけに一定の意味はあろう。状況次第では初の首脳会談が実現する可能性も出てきそうだ。

 そもそも中国と台湾は4年前に自由貿易協定を結ぶなど経済的には切っても切り離せない。台湾側からすれば大陸での経済権益の拡大だけでなく、ことし北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に中国の口利きで出席を果たすことへの期待もあるようだ。

 一方の中国の狙いはどこにあるのか。政治対話を重ね、平和協定に続いて香港のような一国二制度を前提にした「統一」につなげたいのは明らかだ。

 ただ台湾の住民の大半が政治体制の維持を望んでいる現状を考えれば、「同床異夢」の感は否めない。対話を続けるほどに不協和音が表面化してくることも考えられる。

 台湾にとって中国が軍事的脅威であることも変わりない。かつて「台湾海峡危機」が何度か叫ばれた。1996年の台湾総統選に際しても、中国のミサイル発射をけん制するため米国が空母2隻を派遣するなど一触即発の状況を迎えた。とはいえ、こうした目に見えた緊張は今や薄らいでいるのも確かだ。

 中台の歴史的接近に、日本はどう向き合えばいいのか。

 安倍政権は台湾に好意的なスタンスを取り、尖閣問題などで対立が深まる中国との連携阻止に動いてきた。地元沖縄県の反対を押し切り、尖閣諸島周辺の漁業権を台湾側に簡単に譲ったのも、そのための一手といえる。こうした戦略が、今後はどこまで通じるのだろう。

 親日派が多かった台湾だが、歴史認識で日本に厳しいスタンスを取る動きもある。高校の学習指導要領は日本の植民地時代を過度に美化しないよう改定したという。これも中国を意識したとの見方ができる。

 中台の接近をことさらに警戒し、離反を願う姿勢でいいのだろうか。むしろ融和ムードを後押しし、双方とよしみを深める外交力こそ求められよう。

 むろん尖閣諸島をめぐる一連の問題が、この地域に新たな緊張を招いているのは確かだ。しかし戦後の日米安保体制が想定してきた「極東有事」の一つが中台の軍事衝突であることは間違いない。そのリスクが本当に減るとすれば安全保障政策にとって歓迎すべきことだ。その点を冷静に踏まえておきたい。

(2014年2月12日朝刊掲載)

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