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社説・コラム

天風録 「旅の果てに」

 ロンドンから欧州を南下し、スエズ運河を抜けインド、香港、横浜へ。「八十日間世界一周」の主人公は財産をはたいて旅を急ぐ。列車や客船、ゾウにも乗って。SF作家ベルヌの小説から140年余り。世界は狭くなった▲何周したろうか。地球儀外交と称し、安倍晋三首相は専用機で飛び回る。本年度は11カ月で延べ31カ国を訪ねた。先週はソチへ。弾丸ツアーも辞さぬ情熱は恐れ入る。でも外遊予算は底を突いて、台所は火の車という▲こちらは予算よりも、日程が足りぬらしい。4月、アジアを歴訪するオバマ米大統領である。3度目の来日を国賓として迎えようと考える日本側をよそに、滞在は1日短くされた。弾丸のごとく、韓国へ飛ぶという▲歴史認識をめぐる日韓のさや当てが、影を落とした。広島の願いも曇りそう。1泊2日では、被爆地を訪れるのは厳しいとみられる。「大統領は検討するでしょう」。ケネディ駐日大使の言葉に期待をかけてきたのに▲さて、80日間の冒険の末に、主人公は大切なものを一つ得る。生涯の伴侶だった。首相の中韓への旅と、オバマ氏のヒロシマ訪問。踏み出したなら、それぞれ、かけがえのないものに気付くだろうに。

(2014年2月15日朝刊掲載)

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