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社説・コラム

『潮流』 美輪さんの歌

■東京支社編集部長・守田靖

 昨年のNHK紅白歌合戦で、原爆で家族を失った若者を歌った「ふるさとの空の下に」を披露した美輪明宏さん。全国各地のトークショーで「私は、原爆で生き残った者です」と語り、「あの日」の悲惨な様子を伝える。その一方、戦時中の軍国主義を批判し、日本が再び戦争をする国にならないようにと訴えている。

 トークショーを収録した「語り継ぐあの八月を」によると、美輪さんは長崎の爆心地から3・9キロの自宅で被爆。幸い無傷だったが「外へ出た瞬間、地獄でした」と振り返っている。

 その美輪さんは、戦時中のある目撃談を挙げ、「軍人は大嫌い」と言う。たまたま明るい端切れで縫った服を着ていた若い女性が、「この非常時に」と顔の形が変わるまで殴り続けられたこと。また、長崎駅で、戦地に行く息子の足にしがみつき「生きて帰ってこい」と叫んだ母親が「非国民」と引きずり倒される姿も。血を流す母親を見て、「息子はどんな思いで戦地に行ったか」と気遣う。

 「腕力だけの人間に国家を預ける恐ろしさを感じる」と美輪さんはトークショーで語っている。

 安倍晋三首相が先日、「(政府の)最高責任者は私だ」と発言。集団的自衛権の行使容認に向け、憲法解釈変更に前向きの姿勢を強くアピールした。まるで「敗戦国」としての歴史を清算し、戦前に回帰するような動き。しかし、国を守るため国民に過度の犠牲を強いた歴史もこの国にはある。その反省や歯止めもなしに「戦後レジーム」の脱却もない。

 建国記念の日に東京・九段の靖国神社を訪れた。境内の資料館には、思いの外、若者の姿が多く、体験していない時代の歴史を知ろうとする熱意も感じた。戦火に二度と国民も他の国も巻き込まない誓いに結び付けてほしい。そう願わずにはいられない。

(2014年2月18日朝刊掲載)

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