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社説・コラム

社説 国連の北朝鮮報告書 拉致解決へ機運高めよ

 日本人の拉致や政治犯の公開処刑などの残虐行為は、北朝鮮指導部による犯罪である―。国連の調査委員会が、北朝鮮の「人道に対する罪」を非難する最終報告書を公表した。

 国際刑事裁判所(ICC)への付託を国連安全保障理事会に勧告し、国連特別法廷の設置まで選択肢として示した。国連機関がここまで踏み込んで糾弾するのは異例だ。解決への行動を求められた国際社会は報告書を重く受け止めねばならない。

 ただ残念なことに、北朝鮮を被告席に引っ張り出す実効性は期待できない。友好関係にあり、安保理常任理事国の中国が拒否権を行使し、反対するのは確実だからだ。

 とはいえ、数多くの証言から北朝鮮の非人道性を明るみにし、国家ぐるみの犯罪を立証した意義は大きい。

 中国にとっても少なからぬ圧力となるはずだ。北朝鮮との関係に再考を迫るものともなろう。調査委の委員長は記者会見で、問題解決へ中国の協力に期待すると言及し、けん制した。

 拉致被害者家族らの証言も報告書は盛り込んだ。拉致問題について、国際社会はこれまで熱心な関心を寄せてきたとはいえない。6カ国協議でも核・ミサイル開発に集中し、置き去りにしたのが実情といえよう。

 だが今回の生々しい証言は各国に衝撃を与えるに違いない。日本にとって拉致のむごさを国際世論に訴える機会である。

 調査委は人権NGO(非政府組織)の働き掛けもあって、日本政府と欧州連合(EU)が共同提案して昨春、設置された。脱北者や拉致被害者家族ら80人以上から聞き取りまとめた資料は370ページ以上に及ぶ。

 拷問、強制収容、市民の迫害…。残虐行為を列挙して「これほどの規模で人道に対する罪を働いている国家は現代世界で比類がない」と断じた。拉致について「最高指導者レベルで承認していた」と指摘。被害者の情報を出身国に提供し、帰還させるよう北朝鮮に勧告している。

 北朝鮮は、全く受け入れられないと反発した。国際社会が結束して包囲網を狭め、粘り強く変化を迫る必要があろう。

 日本政府は「対話と圧力」で拉致問題の解決を探ってきたが糸口さえつかめず、被害者の肉親は高齢化が進む。中国地方の被害者では米子市の松本京子さん=失踪当時(29)=が韓国情報機関の分析では平壌にいるとされる。だが母親は2年前、再会を果たせぬまま他界した。解決には一刻の猶予もない。

 北朝鮮は核実験によって国連から制裁措置を受けている。米国との対話再開も見込めない。八方ふさがりの中、外交の突破口を探りたい思惑か、韓国と7年ぶりの高官協議を開いた。

 日本、韓国は北朝鮮にどう向き合うか。岸田文雄外相が意欲を示す日韓外相会談などで議論し、足並みをそろえたい。冷え切った両国関係に照らすと困難だろうが、拉致問題の打開には不可欠ではないか。

 人道の罪を追及する国際世論を背景に、北朝鮮に迫る。日本政府には強い覚悟と姿勢が求められよう。

 非公式の折衝を並行して進めることも視野に入れたい。あらゆるチャンネルで拉致被害者の帰還を実現する。外交の力、政権の本気度が問われるときだ。

(2014年2月19日朝刊掲載)

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