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社説・コラム

『この人』 第23回林忠彦賞を受賞した写真家 笹岡啓子さん

被災地撮影 「今」を問う

 広島市安佐南区生まれ。帰省のたびに平和記念公園を撮ったシリーズ「PARK CITY」などで高い評価を得てきた。今回の賞は、時代を象徴する人物肖像で知られた周南市出身の写真家の名を冠する。「時代を撮れている、と認められたとすればうれしい」

 受賞作「Remembrance」は、東日本大震災後の東北地方で取材した。岩手や宮城の津波被災地や、福島の放射能汚染地。引き気味の広い画角で、目の前の光景をそっけなく撮っている。

 「被害や復興を伝えようとか、自分の関心に引き寄せない。『目』に徹する」。だが、そのためには現場に分け入り、風景の本質をつかむ知性がいる。「作者の思索を追体験できる写真」と評された。

 震災から1カ月後、岩手県釜石市に入った。あまりの惨状を前に立ちすくんでいると、地元の人が「隣の大槌町はもっとひどい。原爆が落ちたみたいだ」と言う。どきりとし、足を運んだ。「比べてはいけないが、そう例えるしかない光景」に、最初のシャッターを切った。

 その後は2、3カ月ごとに通い、成果を小冊子にして続々と刊行。2013年秋までに41冊を出し、全体が受賞対象になった。「記憶、想起」を意味するタイトルに込めたのは「思い起こすことが現在をつくる」との思い。だから素早い発信を重ね、ヒロシマに向かう。

 東京都杉並区在住。23日から廿日市市宮内のアートギャラリーミヤウチに「PARK CITY」を出展するほか、受賞作品展が5月に周南市美術博物館である。(道面雅量)

(2014年2月21日朝刊掲載)

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