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社説・コラム

社説 山口知事に村岡氏 「若さ」で新風どこまで

 41歳の若きリーダーの誕生に期待もあれば不安もあろう。きのう投開票された山口県知事選で宇部市出身の元総務省官僚、村岡嗣政氏が初当選した。

 山本繁太郎前知事が、病気のため任期途中で辞任したのに伴う選挙。その後継をうたい、若さと元気を前面に打ち出して余裕の勝利につなげた。むろん自民党と公明党に加えて、連合山口などの組織力の後押しがあってこそである。

 官僚出身の知事は7代続けてとなる。村岡氏は高知県や広島市などに勤務した経験があり、地方自治の現場には確かに精通していよう。選挙戦を通じ、熱意や実直さもにじみ出ていた。古里の知事として、手腕をどこまで発揮できるか。

 全国平均より早く進む人口減と少子高齢化に、じり貧の産業力。県が置かれた現状は厳しい。まず遅れていた予算案の編成作業が待ち受ける。有権者の負託に応えるためにも自らのカラーを早めに出し、県政に新風を吹き込んでもらいたい。

 それにしても新知事の1期目を占うはずの政策論争が盛り上がりを欠いたのは残念だ。冬場とはいえ前回より下がった投票率にも反映されていよう。

 村岡氏が公約でキーワードにしたのは「突破力」である。前知事がレールを敷いた「産業戦略推進計画」を継承し、地域経済を活性化することなどを掲げたが、並べた政策には抽象的な表現も目立つ。総務省を急きょ退職して立候補した事情はあるとしても物足りなさは残る。

 とりわけ全国的に注目されていた原発や基地の問題について本人が選挙演説などで触れることはほとんどなかったようだ。あえて争点化を避けた印象も拭えない。他の2候補との論戦は結果的にかみ合わなかった。

 だが懸案は待ったなしだろう。前知事が先送りしたままの上関原発の建設に向けた公有水面埋め立て免許延長の可否を、どのように考えるのか。日米両政府が2017年ごろを完了のめどとする岩国基地への空母艦載機部隊移転という難題に、どう向き合うか。1期目から早々に判断力が問われる。

 中国地方では広島県と岡山県の知事も40歳代だ。フレッシュな人材が地方自治を担うのはむろん頼もしい。一方で、車の両輪である県議会の海千山千のベテランと渡り合い、言うべきことを言う関係を築くには相当な調整力も要る。そのあたりを心配する向きもあろう。

 国との関係でも、同じようなことがいえるのではないか。

 「総理のお膝元」だけに村岡氏の陣営は安倍政権との太いパイプを強調してきた。とはいえ国の方針に頼るばかりでいいものだろうか。場合によって地方の視点からもの申し、対案を示すぐらいの気構えも求められる。エネルギー政策についても例外ではないはずだ。

 同じ自治官僚出身では、鳥取県知事時代の片山善博氏が地方への税源移譲などについて国側に堂々とかみついた例もある。国と地方は本来、対等の関係である点は忘れないでほしい。

 若さゆえに4期、5期といった長期県政を期待する声が陣営にはあるという。しかし首長の多選の弊害も指摘される。この4年でやるべきことをやり、結果をしっかり出して審判を仰ぐのは当然のことであろう。

(2014年2月24日朝刊掲載)

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