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社説・コラム

天風録 「ウクライナのことわざ」

 「金の鍵はどの錠前にも合う」ということわざがウクライナにあるそうだ。お金があればどんなことでも可能になる、という意味。富や権力を手にすれば、誰でも気が大きくなるのだろうか▲かの地で大統領の座を追われたヤヌコビッチ氏が姿をくらました。民心という錠前に合う鍵は持っていなかった。とはいえ独裁者と民主化勢力が争う単純な図式でもないらしい。ロシア寄りの東部と、欧州に近づきたい西部との間に溝があるようだ▲問題はそれだけにとどまらない。主を失った大統領公邸が白日の下にさらされた。42億円のシャンデリアから私設の動物園まで。利権と汚職にまみれた暮らしを知り、国民は憤慨している▲30年近く前、フィリピンのマルコス大統領の宮殿に残された千足以上の婦人靴に世界が目を疑った。リビアのカダフィ政権の豪邸に度肝を抜かれた。金の鍵は、使うほどにメッキがはげる。力ある者たちも判で押したように、哀れな末路をたどった▲ウクライナの「後見人」の座をめぐって、場外の駆け引きが激しくなってきた。欧州は資金援助に、片やロシアは兵糧攻めに傾く。国民が何より求めるのは、安定と民主化への扉を開く鍵だろう。

(2014年2月26日朝刊掲載)

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