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社説・コラム

『書評』 話題の1冊 学生が聞いた学徒出陣そして特攻 広島経済大岡本ゼミナール編

 70年余り前の1943(昭和18)年9月、東条英機内閣は文科系学生の徴兵猶予を停止した。第14期海軍飛行予備学生はそれまでの志願とは違い、徴兵による「学徒出陣」だった。本書で学生に証言した呉市の大之木英雄さんもその一人である。

 翌月、東京・明治神宮外苑競技場(現国立競技場)で催された雨中の壮行会はニュース映画でも知られる。南西諸島方面への特攻などで3323人のうち411人が戦死・殉職した。

 14期の慰霊祭は和歌山の高野山で毎年営まれてきた。大之木さんの誘いで、一度参列させてもらう。お酒が入ると、当然ながら特攻が話題にのぼった。

 「零戦に乗った連中はまだよかったよ」「『桜花』や『白菊』なんて悲惨だった」

 桜花は今で言えば有人ロケット爆弾、白菊は偵察員教育の練習機である。生還の可能性のない「作戦」は、もはや作戦などと言えるものではなかった。

 しかし、本書はその特攻を善悪で断じるのではない。心ならずも出撃した若者たちの内面に思いをはせる素材だ。2009年、広島経済大岡本貞雄ゼミの求めに応じた大之木さんの沖縄での証言を、おそらく父母も戦争を知らない世代の学生たちが編んだ。5年がかりだった。

 旧東京商科大(現一橋大)の3年で学徒出陣。元山(現在の北朝鮮・ウォンサン)の航空隊に配属された零戦搭乗員だった。学生長のもとで自治が認められ、戦争をクールに見る者も多かった。だが、その空気も次第に変わり、「(戦争は)おれたちがやらざるをえない」という宿命論に傾いていく―。

 大之木さんは沖縄に赴く直前、「誤解されるかもしれないし、間違いなく伝える自信はない」と語っていた。確かに歳月とともに理解が難しい歴史になろう。この一冊が一つの手掛かりになるのかもしれない。(佐田尾信作)(ノンブル社・1260円)

(2014年3月2日朝刊掲載)

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