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社説・コラム

社説 露のクリミア介入 「新冷戦」の構図危ぶむ

 旧ソ連が1979年にアフガニスタンに侵攻し、世界情勢を緊迫化させた事態を思い出す。

 新政権が樹立されたウクライナに対し、ロシアが力で介入する姿勢が露骨になっている。他国内なのに堂々と軍事行動する決議を上院で承認し、南部クリミア半島の自治共和国を既に実効支配したとの見方がある。

 「同胞の保護のため」などと主張するが、他国の主権を侵害する軍事行動を正当化できるはずはない。場合によっては今週からのソチパラリンピックにも影響してこよう。プーチン大統領には自制を強く求めたい。

 親ロ派のヤヌコビッチ前大統領の失脚から1週間。事実上の亡命を受け入れたロシア側の強硬姿勢は、国際社会にとって予想以上だったといえる。

 非難が強まるのも当然だ。主要8カ国(G8)のうちロシアを除く国々は強い懸念を示す声明を出した。6月にソチで予定される首脳会議の準備をボイコットする動きもある。特に国際法違反だと断じる米国は、経済制裁まで示唆している。

 欧米との関係が悪化し、ロシア包囲網が築かれるとすればプーチン氏にも得策ではないはずだ。それでも聞く耳を持たないロシア側の狙いは何なのか。

 当面の焦点となるクリミア半島は第2次世界大戦後、ロシアからウクライナに移管された。ロシア語を話す住民が多数を占め、経済的に結びつきが強い。旧ソ連崩壊後もロシア黒海艦隊が拠点を置く。新政権が目指す通り、ウクライナ全土が欧州連合(EU)に入れば不利益を被ることは十分想定される。

 それを防ごうと軍隊を動かして圧力をかけ、もともと機運のあったウクライナからの分離をロシア主導で一気に進めるシナリオなのだろう。明らかに強引な手段でも、米軍などと正面から軍事衝突する可能性はないと踏んでいるふしもある。

 しかし、プーチン氏の認識は甘過ぎる。何より現在の事態が世界全体に及ぼす影響を、どこまで自覚しているのか。

 現在の米ロ関係は「新冷戦」という言葉で語られ始めている。豊富なエネルギー資源を背景に影響力を強めるロシアが、かつての敵国と再びにらみ合い、緊張を高める構図である。例えばシリア内戦の和平交渉が前に進まない背景には、両国の拭えない対立関係があろう。

 米ロ主導の核軍縮も停滞する恐れがある。そうした微妙な状況だからこそ軍事力行使はどんな場合も慎重でなければならない。米国が昨年、シリア攻撃を用意した際は、力による解決だとロシアも批判したはずだ。自分たちに都合のいい場合は許されるという身勝手ぶりなら、サミット開催国の資格はない。

 日本政府は対応に苦慮しているようだ。きのう安倍晋三首相は「平和的解決を求める」と自制を求めたが、このところ日ロは良好な関係にある。ロシア国内の人権問題を理由に主要国の首脳がソチ五輪出席を見送る中でも、首相はあえて足を運んだ。この秋のプーチン氏来日も現時点では予定通りという。

 北方領土問題の解決に加え、経済交流の促進は急がれる。だが緊迫するウクライナ情勢を考えれば「蜜月」ばかりでいいのか。国際社会の一員としてロシアの動きと向き合い、厳しくもの申す姿勢も必要だろう。

(2014年3月4日朝刊掲載)

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