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社説・コラム

社説 日朝非公式協議 拉致解決につながるか

 日本と北朝鮮の赤十字会談に合わせ、両国政府の非公式協議が中国で開かれた。拉致問題も話し合われたようだ。

 両政府の公式協議はおととし11月以来、催されていない。その翌月に北朝鮮が事実上の弾道ミサイルを発射したため、協議は中断していた。

 非公式協議のきっかけとなった赤十字会談は、北朝鮮からの申し入れだったという。これまでの経緯を踏まえれば、唐突感は否めない。

 今回の動きが拉致問題の解決につながる可能性はあるのか。日本政府は公式協議を開催するにしても、しっかり見極めなければなるまい。

 最近の北朝鮮情勢は以前にも増して混迷しているようにみえる。昨年12月には、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記に次ぐナンバー2とみなされた張成沢(チャンソンテク)元国防副委員長が処刑された。先月からは、日本海側に短距離弾道ミサイルを相次ぎ発射している。米国と韓国の合同軍事演習を受けての対抗措置と思われる。

 そんな時期に北朝鮮はなぜ日本への働き掛けを強めるのか。朝鮮半島の非核化を目的とした6カ国協議の参加国の協力関係を揺さぶろうとしていると見ることはできよう。北朝鮮包囲網の一角を崩す狙いである。

 北朝鮮が目指すのは、米国との直接対話を通じた政治体制の維持とされる。だが米国は、北朝鮮が6カ国協議を通じて非核化の動きを具体的に見せなければ、対話には応じない姿勢だ。後ろ盾だった中国もこのところ、態度を硬化させている。

 こうした状況だからこそ、拉致問題を抱える日本へ誘い水を向けたと受け取れる。日本は歴史問題で中国や韓国に加え、米国との関係もぎくしゃくしている。日米間にくさびを打ち込む思惑があるのかもしれない。

 今回の非公式協議について岸田文雄外相はきのう、「1年4カ月ぶりに政府間で意見交換したことは一定の意味があった」としながら、すぐに政府間の公式協議を再開する段階ではないとの認識を示した。北朝鮮が拉致問題は「解決済み」としてきた主張を簡単に変えるとは思えず、今後の協議に慎重なのは当然だろう。

 米国も神経をとがらせているようだ。米国務省の報道官は「透明性のある形で解決しようとする日本政府の取り組みを支持する」と述べた。あえて「透明性」に言及したのは、日本だけが秘密裏に行動することに自制を求めたといえる。

 国際社会に目を向ければ、新たな動きが生まれている。国連の調査委員会は先月、北朝鮮の拉致問題などを「人道に対する罪」と非難する最終報告書を公表したばかりである。国連安全保障理事会に対し、国際刑事裁判所への付託や国連特別法廷の設置を勧告している。

 拉致被害者の家族は高齢化が進んでいる。問題解決を急がなければならないのは論をまたない。その意味で、北朝鮮との協議の継続も探る必要はある。

 ただ国際情勢の現状を見据えれば、日本が単独で拉致問題の解決を目指すのが必ずしも得策になるとは限るまい。国際社会との連携が極めて重要だ。

 北朝鮮をめぐる問題は、6カ国協議での解決が国際社会の合意である。中韓両国との関係改善は不可欠だろう。

(2014年3月5日朝刊掲載)

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