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社説・コラム

社説 武器禁輸見直し 平和国家の理念揺らぐ

 「平和国家」としての理念を揺るがす問題といえよう。

 安倍政権が武器輸出をめぐる新たな指針を打ち出そうとしている。禁輸の原則を大幅に見直す内容であり、1967年に掲げて以来、国際社会に日本の立場を明確にする重要政策だった「武器輸出三原則」は姿を消すことになる。今月中に一気に閣議決定に持ち込む構えというのは、あまりに拙速ではないか。

 伝えられる指針案を見る限り、これまでとは全く違う発想に思える。禁輸を基本として例外を認めるのではない。あくまで輸出そのものを是とし、禁止を例外扱いとするからだ。

 個別の輸出を認めるかどうかは政府側で慎重にチェックするというが、基本的には現在の北朝鮮のような国連決議による武器禁輸国などだけを対象から除くルールとなりそうだ。

 その中で長年、国家として禁じてきたはずの紛争当事国への輸出すら可能になることに、重大な懸念を抱かざるを得ない。

 現在の三原則のもとでも日本が共同開発に参加するF35戦闘機のイスラエルへの供与の是非が議論されてきたが、さらに踏み込んで海外に武器が提供される事態も考えられる。

 例えばシリアのような内戦において、日本企業が製造した戦闘車両や火器などが政府側に渡り、それが反体制派の弾圧に使われることもないとはいえまい。日本という国が間接的に手を貸すことにならないか。

 「死の商人にはならない」と小野寺五典防衛相は講演で述べたものの、これまでのような明確な歯止めがなくなる以上、時の政権の都合による拡大解釈は起こりえよう。

 むろん三原則が歴代政権によって厳格に守られてきたとは言いがたい。米国向けの技術供与など「例外」は少しずつ拡大してきた経緯がある。民主党政権時代に人道目的による防衛装備品の提供も認め、ハイチでの国連平和維持活動(PKO)で自衛隊が使った重機を現地に残してきた。さらに安倍政権下では南スーダンPKOで韓国軍に銃弾まで提供している。

 そうした流れを一気に加速させる現在の動きを、経済界とりわけ防衛産業が後押しをしているのは明らかだ。武器の共同開発と生産はコストを抑えられる上、国際的に主流であり、国産技術の育成にもつながる。そんな理屈があるのだろう。

 とはいえ、一足飛びに三原則をなくせという議論に強い不安を感じる国民は多いはずだ。先月下旬の共同通信の世論調査で反対が67%に上ったことも、その表れにほかなるまい。

 今や人道上の見地から、武器流通の規制は国際的な潮流である。生物化学兵器や地雷の禁止に続いて通常兵器の取引規制をする武器貿易条約が昨年、国連で採択された。三原則見直しの作業と並行し、その批准を日本政府が今国会で求めているのはどう考えても分かりにくい。

 この動きは、安倍政権による一連の安全保障政策の転換の中に位置付けられよう。経済が好調で内閣支持率が高いうちにやりたいことをやる、との思惑も透けて見える。ただ与党の公明党が難色を示す集団的自衛権の憲法解釈見直しと同様に、国会でも当然、議論を尽くすべき重要なテーマである。閣議決定を急ぐ姿勢は許されまい。

(2014年3月6日朝刊掲載)

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