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社説・コラム

社説 中国全人代 「改革」の中身問われる

 中国の国会に当たる第12期全国人民代表大会(全人代)第2回会議がおととい開幕した。

 目を引いたのが、国防費の伸びである。2014年度予算案は、前年度より12・2%増の約13兆4400億円。日本の防衛予算の3倍近い。中国が急速な軍拡に突き進むことに対し不安は募る。

 むろん気掛かりな問題はほかにも山積する。公害規制は追いつかず、大気汚染は深刻化する。少数民族政策などをめぐってテロや暴動も頻発し、社会の不満はかつてないほど広がりつつある。東シナ海上空の防空識別圏の設定など、近隣諸国への強硬な姿勢も続いている。

 李克強首相は、約2時間の政府活動報告で「改革」という言葉を77回も繰り返したという。それは、中国社会が大きな矛盾に突き当たっている現実をかえって浮き彫りにしたといえよう。習近平指導部は今後その改革の中身が厳しく問われる。

 「世界経済のエンジン」と言われ、世界2位の経済大国にまで成長した中国。しかしその経済をめぐり国際社会からの懸念が膨らみつつある。

 今回、14年の経済成長率目標は3年連続で7・5%に設定された。ただこの数字も裏付けが十分にあるわけではあるまい。足元の環境は不安定で、目標達成が不透明と言わざるを得ない。

 まず野放図な投資を続けた結果、地方政府の借金は総額300兆円にまで膨れている。製造業の生産過剰や、住宅バブルも起きつつある。

 とりわけ最大のリスクとされるのが「影の銀行(シャドーバンキング)」であろう。当局の規制が厳しい銀行を介さずに、ファンドなどで資金を集める取引である。地方の公共事業を支えてきたが、一部の金融商品が債務不履行寸前に陥っている。

 経済が揺らぐ根底には、党幹部を中心とした社会の腐敗構造もあるのだろう。

 そもそも社会主義の枠内で、資本主義的な経済を試みるこの体制についてかねて矛盾が懸念されてきた。国民の自由が著しく制限される中で、経済の自由が担保できるのか。一部の特権階級に富が集中し、さらに中国特有の縁故社会で、格差が拡大するとの指摘である。いまその矛盾が現実に噴き出しつつあるといえる。

 中国では毎年、暴動が20万件起きているとの推計もある。今回、警察の治安維持対策などに充てられる予算は6・1%増えている。地方政府分も含めると国防費と同規模となるとみられる。社会の不満を力で抑え込む姿勢では、根本的な解決は程遠いと言わざるを得ない。

 李首相の演説では、名指しを避けながらも安倍政権をけん制する場面もあった。日本を念頭に愛国主義に訴えて、外に不満を向けさせる狙いだろう。それより自国の社会のひずみを解消することが大切であることは言うまでもない。

 中国は社会の緊張を高めることなく、スムーズに政治、経済の改革を急いでほしい。

 日本の姿勢も問われる。いまだ首脳会談さえ実現できず、力には力でけん制するような動きは建設的ではない。日中双方の安定と発展のため関係改善が急務であることを、両トップは肝に銘じてもらいたい。

(2014年3月7日朝刊掲載)

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