×

社説・コラム

社説 震災3年 暮らしの再建 弱者の目線で「設計」を

 日本が超高齢化・人口減少社会に向かう入り口で、大震災と原発事故は起きた。被災地でははその流れが一気に進む。

 国の復興予算の枠は25兆円に達し、安倍政権は「復興の加速化」を唱える。だが、被災地では、がれきが撤去されて整地は進んでも、人口流出は止まらない。宮城県女川町では4人に1人が町を去った。「人の復興」をなおざりにしてはなるまい。

 24時間電話相談「よりそいホットライン」の代表を務める岩手県宮古市の熊坂義裕医師は「誤解を恐れずに言えば、もう励ましの言葉は要らない」と直言する。必要なのは具体的な生活設計であり、加えて福島では健康不安の解消なのだ。

 東北の津波震災は海岸線の地形を変えた。阪神大震災との大きな違いだろう。地盤沈下や浸水によって、住んできた土地そのものが失われた。それも、ある日突然の出来事である。

 岩手、宮城、福島の被災3県では、プレハブ仮設住宅が昨年12月で約4万5200戸。県が借り上げる、みなし仮設住宅がほぼ同数あり、計21万人が不自由な生活を送る。これも、5年ほどで仮設住宅を解消した阪神大震災とは大きく異なる。

 さらに原発事故で避難した場合は土地家屋は失われていなくても、元の住まいに戻れないジレンマがあろう。家族の離散も起きている。こうしたストレスが何を引き起こしているのか。

 まず震災関連死が約3千人に上る。「よりそいホットライン」では「自殺しようと思い悩んでいる人」という音声案内を選ぶ例が、被災3県で増えている。ドメスティック・バイオレンス(DV)の相談も多い。

 また、要介護認定を受けた高齢者は約2万人増えた。震災後、新規申請のペースが急増した時期がある。19市町村では認知症の発症者も目立つ。

 仮設住宅での長引く避難生活が、健康に影響を及ぼしているのは想像に難くない。認知症も、こうした生活環境での引きこもりが主な原因である。

 ならば、今最も大切なのは、高齢者や夫と離れて暮らす妻子など弱者の立場に立った、きめ細かな政策ではないか。

 例えば持ち家の再建支援や災害公営住宅の建設などである。福島県内では民間賃貸住宅を買い取って避難住民の帰還を促す制度も設けられた。

 しかし、災害公営住宅の完成戸数は計画に程遠い。権利関係などから市街地では用地取得が難航し、建築費の高騰や入札不調も立ちはだかっている。

 岩手県の達増拓也知事はきのう、NHKの討論番組で「復興が進まない中での東京五輪はあり得ない」と述べた。五輪景気で復興が置き去りにされる危機感を表明したといえよう。

 復興後の住まいには医療や福祉の拠点も必要だ。被災地ではもともと医療危機が叫ばれていたが、震災後、医師、看護師、介護職員らの人手不足が深刻化している。外来患者の減少は病院経営をさらに圧迫するだろう。地域包括ケアの視点も交え、支援が求められる。

 被災自治体からは「既存の制度では対応できないことがある。復興予算の使い道を任せてほしい」という声も根強い。問われているのは、日本の地方主権と社会政策そのものではないだろうか。

(2014年3月10日朝刊掲載)

年別アーカイブ