×

社説・コラム

『この人』 被爆者と「証言の航海」に出る広島大3年生 福岡奈織さん

「ヒロシマの継承」高ぶる

 被爆者8人が3カ月かけて18カ国を巡る非政府組織(NGO)ピースボートの「証言の航海」に、企画や被爆者のサポートなどを担う「おりづるユース特使」として同行する。「原爆投下は歴史上の出来事ではなく、生きた人間の経験だと伝える手伝いをしたい」。出発を13日に控え、気負いはない。

 「経験」を理解する努力はしてきた。2013年6月、広島市中区であった漫画「はだしのゲン」関連の催しに実行委員として参加。12年に亡くなった作者の中沢啓治さんの手記を読み、主人公ゲンが被爆した場所や逃げたであろう道を実際に歩いた。ときに目線の高さを変え、子どもの目に何が映ったのかに思いをはせた。「家族や友人、大切な日。無数にあった暮らしが一瞬で失われたと実感できた」

 広島市で生まれ育った被爆3世。母方の祖父が広島で被爆した。ただ祖父は1972年、体験を語らぬまま41歳で亡くなっており「被爆3世という意識はなかった」。むしろ、原爆と向き合ったのは学校の平和学習。ヒロシマの若者の一人として「被爆者の証言を聞ける最後の世代。伝えなければ」との思いを膨らませてきた。

 祖父が生きていれば同世代の被爆者たちとの船旅。「被爆者だけでも、若者だけでもできない、これからの『ヒロシマの継承』の形がきっと見つかる」と高ぶる。

 友人とのカフェ巡りや街歩きが趣味。「知らない路地に入り込んで雑貨店を見つけるのが楽しい。寄港先でも町の空気を楽しみたい」。安芸区で両親、弟2人と暮らす。(明知隼二)

(2014年3月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ